2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J00201
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
蛭子 彰仁 北海道大学, 理学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 超幾何関数 / 隣接関係式 / 連分数 |
Outline of Annual Research Achievements |
超幾何級数の隣接関係式とは、パラメータが整数差ずれた複数の超幾何級数の間に成り立つ有理関数係数の一次関係式のことをいう。この隣接関係式について深く理解するため、またそれが様々なところで応用できる可能性を探るために、以下の研究を行った。 1. 分割表の解析において重要な役割を果たす定数(正規化定数等)は、有限和のA-超幾何関数を用いて表されることが知られており、またこの関数の値を正確に評価する方法も近年開発されつつある。本研究では、2×nという簡単な分割表においてであるが、従来の手法よりずっと早く、正規化定数等の量を計算するアルゴリズムを開発し、さらにそれを計算機に実装した。これは、Lauricellaの多変数超幾何級数FDが有限和である場合に、FDの変数の数に比例する計算量で、このFDの値を求める計算法の構成と実装を行ったことを意味する。 2. 一般超幾何級数3F2(1)の値は、重要な研究対象でありながら、その全貌は未だに良く分かっていない。例えば、3F2(1)の数値計算を正確に行おうしても、級数自体の収束が非常に遅いために、精度良く数値計算をすることさえも難しいままである。そこで対象を少し絞って、つまり、パラメータを少し特別な場合(しかし、それでも十分広いクラス)の3F2(1)を考え、それの連分数表示を予想した。この連分数表示が正しいのならば、真の値に線型収束していくことが分かる。このことから3F2(1)の数値計算に役立つことが期待される。 3. 3F2(1)に関して隣接関係式が成り立つことが度々言及されてきたが、その存在性・一意性についてきちんと議論はされていないままであった。これらの問題について岩崎克則教授と共同研究を行い、確かに存在性・一意性が成り立つことを証明した。同時に、元の3F2(1)とは異なる五つの3F2(1)もまた全く同じ隣接関係式を満たすことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における目的は、隣接関係式そのものを深く理解することと、またそれが様々なところで応用できる可能性を探ることにある。 前者に関して、今年度中に一般超幾何級数3F2(x)に関する隣接関係式の性質を論文として纏める予定であったが、岩崎克則教授との議論の中、詰める必要がある箇所が見つかり、予定が実行できなかった。しかし、議論の中で、x=1に固定した一般超幾何級数3F2(1)に関する隣接関係式の性質を論じるだけでも、誰も今まで深く考えておらず、また結果が十分に面白いことが分かったため、岩崎教授との共同研究に発展し、共著論文として纏めた。現在、投稿中である。 後者に関して、即ち、隣接関係式の他分野への応用に関してであるが、元々は平均曲率一定曲面の離散化に関する研究を行う予定であった。しかし、超幾何関数と統計の分野には深い関わりがあり、多変数超幾何多項式の値をなるだけ早く計算することが重要になるという報告に触発され、その数値計算について考えることとなった。結果、Lauricellaの超幾何級数FDが多項式である場合、既知の手法より、ずっと早い計算法の構成と計算機への実装を行うことが出来た。このように超幾何級数の数値計算を行うことは、超幾何級数そのものの研究だけでなく、応用上も重要であるようである。そこで、続いて、一般超幾何級数3F2(1)の数値計算に関する研究を行った。既知の手法では、値を正確に計算するためには真の値に対数収束するような級数表示を使うしかなかった。しかし、パラメータが特別(しかし、十分広いクラス)な場合には、真の値に線型収束するような連分数表示が成り立ちそうなことが分かった。これは現在予想の段階であるが、岩崎教授との共同研究の結果、ほぼ証明が完成している。 以上のことより、研究は全体的におおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、来年度も隣接関係式そのものを深く理解することと、またそれが様々なところで応用できる可能性を探ることを両輪に研究を進めていく予定である。具体的には以下の通りである。 前者に関しては、今年度に完成させることが出来なかった一般超幾何級数3F2(x)に関する隣接関係式の性質を論文として纏めることを第一の目標とする。 後者に関しては、統計への応用のために、あるいは他の分野への応用のために、多変数超幾何多項式の、より高速な数値計算法の開発を行う。今年度開発した、Lauricellaの多変数超幾何多項式FDの計算法では本質的にはStokesの定理しか使っていないため、他の多変数超幾何多項式にもこの手法は適用できるかと思われる。この手法が確かに適用可能であることを確認し、もし可能であればそれを計算機に実装することを第二の目標とする。また、一般超幾何級数3F2(1)の連分数表示に関する岩崎教授との共同研究も進め、さらには平均曲率一定曲面の離散化に関する研究も進めていきたい。さらに、Appellの多変数超幾何級数F1に対し、隣接関係式の方法を使うことで得られる特殊値をさらに特殊化することで、保型函数論から得られるような公式が求まることが分かってきた。これらの公式を纏めて論文として発表することも目標とする。
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Research Products
(11 results)