2015 Fiscal Year Annual Research Report
超伝導検出器と単一磁束量子回路を用いた生体高分子用高分解能質量分析システムの研究
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15J00206
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
佐野 京佑 横浜国立大学, 工学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 単一磁束量子回路を用いた検出器信号の読み出し実証 / 超伝導質量分析システムの電気ノイズ耐性強化 / 超伝導集積回路の低電流化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、分子量依存のない高感度検出の可能な超伝導イオン検出器とサブTHzの高速動作の可能な超伝導論理回路を組み合わせた高精度質量分析システムの構築である。まず、単一磁束量子回路を用いた時間測定回路と超伝導検出器を同一冷凍機に実装した分析実験を行う前に、単一磁束量子回路からなる単純な信号読み出し回路を超伝導検出器と同一の冷凍機に実装し、検出器信号の室温環境への読み出し実証を行った。その結果をまとめた論文は超伝導技術に関する論文Superconductor Science and Technologyに掲載された。 この後、両超伝導回路を単一の冷凍機に実装した分析システムを用いて分析実験を行ったところ、イオンの加速装置で生じる電気的ノイズが冷凍機を通じ単一磁束量子回路に流れ込みその動作を不安定にすることが分かった。単一磁束量子回路への電気的ノイズの侵入経路の特定と冷凍機-単一磁束量子回路間の電気的絶縁に取り組みその改善を確認した。分析実験に成功した結果について、国内の応用物理学会及び電気学会にて、また、超伝導に関する国際会議であるISEC2015にて発表した。 また、本課題の解決には時間を要すると考え、採用二年目に取り組む予定であった単一磁束量子回路の低電流化の研究を前倒し、単一冷凍機システムの安定化と並行して取り組んだ。直列バイアス技術と呼ばれる低電流化技術を単一磁束量子時間測定回路に適用し、その電流量を約3割低減可能であることを示した。本研究については、国内の低温工学・超電導学会及び応用物理学会にて、また、ヨーロッパにおける超伝導に関する国際会議EUCAS2015にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
単一磁束量子回路を用いた超伝導検出器信号の読み出し実証に成功し、質量分析システムの実現可能性を示すことに成功した。その結果をまとめた論文は超伝導技術に関する論文Superconductor Science and Technologyに掲載された。 この後、実際に両超伝導回路を用いたフル超伝導システムの実証にも成功した。ただし、イオンの加速装置から生じる電気的ノイズにより単一磁束量子回路の動作が不安定となることが発覚し、本課題の解決に大きな時間が割かれてしまった。一方で、採用二年目に取り組む予定であった単一磁束量子回路の低電流化の研究を前倒し、単一冷凍機システムの安定化と並行して取り組んだ。直列バイアス技術と呼ばれる低電流化技術を単一磁束量子時間測定回路に適用し、その電流量を約3割低減させることが可能であることを示した。本技術を用いることで時間測定回路が同時に格納できるデータ容量を増大させることが可能となる。 以上より、予定外の問題に時間を取られ分析システムの構築とその実証に時間を要してしまったものの、次年度の研究を先んじて取り組んだことで研究全体としては「おおむね順調に進展している。」と言える。 また、新年度に入り、本低電流化技術の研究はさらに進み、格納できるデータ量をこれまでの4倍に増大させた結果について、28年度に国内の超伝導エレクトロニクス研究会及び米国の国際会議Applied Superconductivity Conference (ASC) 2016にて発表予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、単一のイオン検出器を用いた分析実験に取り組んできた。そのため、今年度は、検出器を複数使用し実効的な有感面積の拡大及び分子の検出速度の向上を図る。また、検出速度の高速化に合わせ、超伝導集積回路の作製プロセスを従来の標準プロセスから高速動作用プロセスへと移行させ時間分解能を向上させる。使用検出器の増大に伴い、同時に格納する必要のあるデータ量が増大するため超伝導集積回路のデータ格納部の拡張が必要である。 超伝導集積回路を動作させるためには一定の電流供給が必要であるが、「データ格納部の拡張」において回路規模の増大は避けられず、これに伴い回路への供給電流量が増大し冷凍機による安定した冷却が困難となる。このため、前年度に前倒しでその取り組みを始めた超伝導回路の低電流化技術をさらに発展させる。既に、現在分析実験に使用している回路の電流量を本技術を用いることで3割程度低減できることは示しており、今後は供給電流量を低減しつつデータ格納量の増加に取り組む。 また、検出器を複数化することで検出速度が向上するだけでなく、質量分析結果のイメージングも可能となる。アレイ上に並べた検出器をX, Y座標に切り分け、各検出器の信号を個別で処理できるように超伝導集積回路を拡張することで、分子の検出位置の判別が可能となる。この位置情報を含めた検出結果を元に特定の分子に対しフィルタリングを行い色分けすることで分析結果が可視化される。分子イメージングに必要な超伝導検出器数及び超伝導集積回路側に求められる信号処理速度・同時データ格納数を算出する。そして、検出器を複数化しその各出力の位置情報を記録できる超伝導位置情報管理回路を設計・実証する。その後、位置情報管理回路とこれまで用いてきた分析回路を組み合わせ、新たな分子イメージングシステムを構築する。
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Research Products
(14 results)