2015 Fiscal Year Annual Research Report
未知のノイズと有限なデータの取り扱いに向けた量子度量衡学理論の拡張
Project/Area Number |
15J00276
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
杉山 太香典 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 量子度量衡学 / 量子誤り訂正符号 / 量子干渉計 / 量子ノイズ / 量子情報理論 / 1次元反復符号 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度(採用第1年度目)は、未知のノイズに耐性のある量子干渉計の提案に向けて、量子誤り訂正符号理論の拡張と具体的な量子誤り訂正符号の性能評価に取り組んだ。 (1)背景:量子誤り訂正符号とは、ノイズによる悪影響から量子デバイスを保護する手法の1種であり、近年の量子情報科学分野における実験技術の大幅な進展により量子誤り訂正符号の実現可能性が高まるに従い注目を集めており、理論研究が活発化しつつある 。現在最も実現の可能性が高いと考えられている量子誤り訂正符号は2次元平板表面符号(2D Planer Surface code)であるが、2次元平板表面符号を利用する量子干渉計についてはこれまで研究がなされていなかった。 (2)理論研究の成果と意義・重要性:量子誤り訂正符号のノイズ耐性を理論的に評価する既存手法は特殊なノイズモデルに対してしか適用できず現実的なノイズモデルを取り扱うことができないため、実デバイスの性能評価には適用できなかった。そこで現実的なノイズを含むより広いクラスのノイズモデルに対して適用可能な新しいノイズ耐性評価手法の構築に取り組み、これに成功した。この結果により、現実的なノイズモデルに対して量子誤り訂正符号の性能評価が世界で初めて可能となった。 (3)数値計算研究の成果と意義・重要性:上記の新手法を用いて2次元平板表面符号のノイズ耐性評価を行うために、まず1次元反復符号(1D Repetition code)と呼ばれる2次元平板表面符号の部分符号のノイズ耐性評価に取り組んだ。既存の手法では評価できないクラスのノイズモデルに対して1次元反復符号の性能評価を行い、ノイズに量子的なコヒーレンスが含まれる場合には含まない場合に比べて性能が低下することを数値的に示した。この結果により、ノイズに量子的なコヒーレンスが含まれる場合の1次元反復符号の性能が初めて明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要欄で報告した、量子誤り訂正符号を利用した量子干渉計の研究は、交付申請書の研究実施計画には記載されていない。これは、量子誤り訂正符号の有用性を示した論文(Lu, Yu, and Oh, Nature Communications 6, 7282(2015))が出版されたのが交付申請書提出後であったためである。当初予期していなかったこの論文の内容を検討した結果、当初の計画を変更して量子誤り訂正符号を利用した量子干渉計の理論研究を進めるのが、「未知のノイズがありかつ測定データ数が有限という実験的に妥当な設定の下で、量子系の性質を活用することにより推定精度をどこまで改善できるのかを理論的に明らかにし、推定精度を改善する具体的な手法を提案する」という本研究課題の目的達成により適していると判断し研究を行った。そのような予期しない研究計画の変更にも関わらず本年度は理論研究の成果(量子誤り訂正符号を利用する量子干渉計の性能を評価する既存手法を拡張した)と数値計算研究の成果(1次元反復符号の数値的性能評価)という、世界に先駆ける2つの成果を得られたことから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度も平成27年度同様、本研究課題の目的達成に向けて理論研究と数値計算研究を推進する。平成27年度に行った1次元反復符号の性能評価を進めさらに詳細な解析を数値的に行う。その数値解析の終了を待って、2次元平板表面符号の数値的な性能評価に取り掛かる。これらの研究結果を学術論文にまとめて学術誌に投稿する。その後、2次元平板表面符号を利用した量子干渉計のデバイス設計に取り掛かる。
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