2015 Fiscal Year Annual Research Report
負債調達源の相違が企業行動(資本構成、投資意思決定)に及ぼす影響に関する研究
Project/Area Number |
15J00285
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
岩木 宏道 一橋大学, 大学院商学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
Keywords | 銀行-企業間関係 / 銀行行動 / ホールド・アップ問題 / 企業金融 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1に、研究プロジェクトを構成する銀行の融資姿勢に関する不確実性を考慮に入れた研究課題に関しては、日本長期信用銀行(以下、「LTCB」という)の破綻事例を元に企業の資金調達行動について検証を進めた。検証の結果より、公的管理期間においては、企業側がLTCB の融資方針の見通しに関する不確実性に直面し、それ以前のリレーションシップ型貸出の影響を受けていたものの、外資系投資会社への変更後はトランザクション型貸出に移行したことを企業側も認識して行動した可能性が示唆された。なお、これらの研究成果は国内査読付ジャーナル(『金融経済研究』)に「銀行の融資姿勢が企業の資金調達行動に及ぼす影響」というタイトルで掲載され、対外的な公表も行った。 第2に、銀行の融資供給に関する不確実性については取引銀行と企業との関係性の相違の観点からも分析を試みた。具体的には、企業が借入を行う取引銀行の集中度の相違が企業とのリレーションシップの強さにも影響を及ぼし、結果として企業の投資行動も変化するのではないかという問題意識の下、特に銀行に資金調達を依存している公開企業を対象とした検証を行った。検証の結果、銀行と太いリレーションシップを築いていることが企業にとっての資金調達を容易ならしめる一方、銀行との間でのホールド・アップ問題を惹起することが確認された。銀行とのリレーションシップを強化することに対するこれら両面について実証的に分析を進めた成果を「銀行の情報独占と企業投資行動」というタイトルにて対外報告並びに公表(『一橋商学論叢』)した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
企業の負債構成において重要な資金供給源である銀行の融資に関しては次の二つの面から研究を進め、成果公表を行った。 一つ目はホールド・アップ問題である。Rajan (1992)による理論分析に依拠すれば、企業が負債調達を銀行に依存している場合は銀行との交渉力の面で企業が劣位に置かれる結果としてレント搾取される懸念が生じる。本研究ではさらに、銀行に負債を依存している状態の企業において一律にホールド・アップ問題が生じるのかどうかという観点から実証的な検証を進めた。研究成果の一部は大学の紀要を通じて公表することができている。 二つ目は銀行の融資姿勢の変化が企業の資金調達行動に及ぼす影響に関してである。実際の検証においては、自然実験の手法を活用するため日本長期信用銀行(以下、「LTCB」という)の破たん事例に焦点を当てた。検証の結果、銀行の融資姿勢の変化が不確実な状況の下では公開企業といえども銀行の融資姿勢の変化の影響を被ることが明らかとなった。逆に、銀行の融資姿勢の変化についての見通しが立つ場合においては銀行の融資姿勢の変化は公開企業にとって重みをもたない点も明らかとなった。研究成果は金融学会の学術専門誌にて査読付き論文として公刊している。 引き続き取り組むべき課題も残っている。その一つに、研究計画に含まれている銀行融資の不確実性に関するインデックス導出が挙げられる。インデックスの導出のため、さらなる文献レビューと銀行の融資姿勢変化に影響を及ぼす要因についての研究を進める必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
現時点では銀行の融資姿勢に関する不確実性のインデックスの具現化するという課題が未達である。平成27年度の研究では銀行の不確実性が惹起される具体的な状況に着目した。平成28年度は当該不確実性を一般化させることが課題となる。そのため、引き続き銀行の融資姿勢に関する不確実性を構成する要素について実証的に解明することが必要となってくる。その一方で、企業にとって銀行融資に関する不確実性はリファイナンスの際により一層重要性を帯びてくることを考慮すれば、広義の概念でリファイナンスリスクという枠組みの中で研究を進めることも視野に入れている。このような観点から研究項目として浮上している内容は、銀行融資含む負債にのリファイナンスの困難度合の違いが企業のペイアウト政策にどのような影響を生じさせるかという問題意識に立った実証研究である。リファイナンスリスクが高い場合、企業は現金をより多く保有しようとするインセンティブが発生するため、結果として配当や自社株買いといった手段を使っての株主への利益還元政策にも影響を生じさせることが予想される。リファイナンスリスクをどのように定義するかという点に関してはRajan (1992)の考察を参考としつつ、負債満期構成に着目していく。 以上のようなアイディアの下、平成28年度は銀行融資の不確実性を構成する要素について実証的解明を進めるとともに、派生的研究としてリファイナスリスクと企業のペイアウト政策との関係性を解明する取り組みを中心に、研究課題の遂行をしていく予定である。
|
Research Products
(5 results)