2015 Fiscal Year Annual Research Report
東アジア諸国の仏教における唯識・如来蔵思想史―五世紀から八世紀を中心として―
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15J00307
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Research Institution | Komazawa University |
Principal Investigator |
李 子捷 駒澤大学, 人文科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 如来蔵 / 種姓(種性) / 真如(真如仏性) / 究竟一乗宝性論(宝性論) / 菩薩地持経(地持経) / 大乗起信論(起信論) / 仏性論 / 東アジア仏教 |
Outline of Annual Research Achievements |
5-7世紀の中国仏教における如来蔵説、特に『究竟一乗宝性論』に見られる「真如」と「種姓」と「仏性」には、いかなる思想的背景があるか、また後世にどれほど影響を与えたか、という問題を全面的に取り組んでいるところである。2015年7月に仏教思想学会にて、これについて発表した。インド仏教における如来蔵思想の代表とされる『宝性論』は、勒那摩提によって漢訳され、その翻訳時期は基本的に漢文『起信論』の成立より早いと言えよう。本発表は主に『宝性論』を中心としてその真如説を再検討してみた。また、『大乗起信論』の真如解釈は、インド以来の如来蔵思想の中で特異なものであることを発見し、2015年6月に韓国で第四回日中韓仏教学共同学術大会にて発表した。 上述の『起信論』・『宝性論』関連論文以外、真諦訳とされる『仏性論』についても検討してみた。真諦訳とされる『仏性論』に見える如来蔵説を『摂大乗論釈』・『宝性論』・『無上依経』・『解節経』・『地持経』などの唯識・如来蔵経論と対比しつつ、その関連性を改めて考察してみた。具体的に言うと、『駒澤大学仏教学部論集』第46号と『駒澤大学大学院仏教学研究会年報』第49号に掲載された二本の論文がある。 中国の南朝仏教においては、『菩薩地持経』は菩薩戒と関連する文脈で言及されることが多いが、それ以外の文脈で積極的に使用されて教理学を構築することは少ないことに対し、北朝仏教の地論師は、菩薩戒を超えた教理一般を多く『地持経』に負う。その代表者の一人である浄影寺慧遠に絞り、彼の『地持経』依用およびその立場を検討してみた。慧遠の『大乗義章』に、一番多く引用されているのは『地持経』である。先行研究ではこの問題はほとんど詳細に検討されていなかった。これにより、初期中国唯識学派としての地論師または地論学派の思想の根底を再認識してみたい。『仏教学研究』第72号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの東アジア仏教研究では、唯識思想と如来蔵思想との違いを強調してきたが、私見によれば、東アジアにおける唯識思想と如来蔵思想は密接かつ複雑な関係にある。また、『勝鬘経』と『楞伽経』と『宝性論』と『起信論』に見られる如来蔵思想は、同じものとは考えられない。特に漢訳は訳者の系統によって解釈の違いが大きいため、梵語テキストやチベット語訳と漢訳を比較し、古い時代の敦煌写本や日本文献中の佚文などを活用しながら、如来蔵思想と唯識思想の複雑な関係を解明し、また、真如の概念の変化などにも注意しながら、中国を中心とする東アジア仏教思想史を広い視点で検討していくことが本研究の目的である。 このうち、南北朝時代の中国仏教にとって、最初に如来蔵思想を体系的に伝えてきた経論は、『究竟一乗宝性論』であった。これは中国仏教にとどまらず、インド仏教の場合でも同様であり、『宝性論』は如来蔵思想の集大成であった。そして、最初に唯識思想を体系的に中国に紹介した経論は、『瑜伽師地論』の同本異訳である『菩薩地持経』であった。このため、唐代以前の中国仏教における如来蔵説・唯識説にとって、『宝性論』と『地持経』が極めて重要である。 平成27年度、南北朝時代の中国仏教における『宝性論』と『地持経』の受容およびその影響について、新発見ができた。これは今後の研究の土台になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
南北朝時代の中国仏教にとって、最初に如来蔵思想を体系的に伝えてきた経論は、『究竟一乗宝性論』であった。最初に唯識思想を体系的に中国に紹介した経論は、『瑜伽師地論』の同本異訳である『菩薩地持経』であった。このため、唐代以前の中国仏教における如来蔵説・唯識説にとって、『宝性論』と『地持経』が極めて重要である。南北朝時代の中国仏教における『宝性論』と『地持経』の受容およびその影響に関するこれまでの新発見を土台にし、視野をさらに広げ、当時の各学派が受けた影響および依用について検討していきたい。 具体的に言うと、浄影寺慧遠だけでなく、当時の地論師(地論宗)における『地持経』の依用と影響、『地持経』と当時の中国仏教の種姓(種性)説との関係、『地持経』訳出と『宝性論』訳出との間に生じた種姓(種性)説の変容、漢訳『宝性論』における種姓(種性)説の思想的根拠、『大乗起信論』の如来蔵・真如説の位置づけなどの問題点について、今後の研究課題として進めていきたい。
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Research Products
(16 results)