2016 Fiscal Year Annual Research Report
六フッ化硫黄を用いた若い地下水の滞留時間推定に関する研究
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15J00384
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
榊原 厚一 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 六フッ化硫黄 / 水の滞留時間 / 降雨流出 / 山地源流域 |
Outline of Annual Research Achievements |
降雨流出水の滞留時間の時間変動から山地源流域における降雨流出プロセスを明らかにするために、無降雨時定期観測と降雨時集中観測を福島県川俣町の森林小流域で実施した。降雨時と無降雨時における湧水・地下水中SF6濃度を滞留時間情報へ換算することで以下のことが示唆された。 無降雨時、湧水の滞留時間は、1.5年~5.5年の季節変動を示したが、降雨時では湧水の滞留時間は、短期間で0年~14年と大きな変動を示した。とりわけ、湧水の流量が増大する過程で、湧水の滞留時間は無降雨時と比較をして、明らかに長くなった。このとき、湧水に直接寄与していると思われる谷底地下水の滞留時間も、湧水の滞留時間同様、無降雨時と比較をして明らかに長くなっていることが確認された。さらに、無降雨時に長い滞留時間を示している地下水中溶存イオン濃度に類似する濃度を、降雨流出水(湧水)は示していた。 以上の結果から、山地源流域に降雨が発生をすると、谷底部に滞留していた短い滞留時間を持つ地下水が、基盤岩内もしくは尾根部に滞留している長い滞留時間を持つ地下水にとってかわられる現象が生じていると考えられる。すなわち、降雨によって湧水に寄与しうる谷部浅層地下水の滞留時間が長くなることにより、降雨時の湧水滞留時間が無降雨時と比較をして明らかに長くなるものと考えられる。 従来から、降雨流出現象に関する研究においては、降雨がどのように流出に寄与するかということが盛んに議論されている。しかし、本研究のように山地源流域の地下水要素に着目をすれば、降雨イベントは、明らかに、地中に貯留されている長い滞留時間を持つ水を流出させる役割があるものと判断される。降雨流出現象において、新しい水(降水)だけでなく、古い水(長い滞留時間を持つ地下水)を総合的に把握することが重要であると考えられ、その知見が得られたことは、本研究の成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究課題達成目標は、継続的な水文観測と降雨イベントにおける湧水滞留時間データを蓄積することであった。2015年5月から途切れることなく水文観測を実施し、降雨時湧水滞留時間推定を合計4回実施したことは、既存研究には無い、オリジナルデータが十分に蓄積できたといえる。その中で、降雨イベント時、湧水の流出量が増大していく過程で10年を超える長い滞留時間を示す湧水が実測されたことは主要な結果であるといえる。 具体的には、現場の水文特性を位置づける基礎データ(降水量・流出量・地下水位)を約2年間10分間隔でデータを取得した。これにより、流域が雨によってどのように応答するかという、基礎情報が得られた。さらに、合計約20回の現地調査を行うことで無降雨時と降雨時の湧水滞留時間の比較に十分なサンプル数を得た。個々の降雨イベントにおいて1~2時間間隔で降雨流出水(湧水)をサンプリングし、六フッ化硫黄濃度を定量し、地下水滞留時間情報に換算する試みは、他に類を見ない。とりわけ、無降雨時と降雨時に地下水の滞留時間の空間分布の変化は顕著であり、その変化から、降雨流出水の滞留時間の変動要因を説明し得る解釈が可能となった。言い換えれば、湧水の滞留時間の変化(本目的)と地下水の滞留時間分布の変化(バックグラウンド)の両者の情報を得られたことは、本研究の具体的な進捗を示すものである。 本研究の目的である、降雨流出プロセスの解明については、現在までの進捗で新たな知見が得られたと考えられる。すなわち、従来の既存研究で指摘されている「雨による希釈により降雨流出水の滞留時間は短くなる」という解釈に、「山地源流域の地下水に着目をすれば、降雨は流域から長い滞留時間を持つ地下水を流出させる機能をもつ」ということを付け加えることができた。以上のことから、現在までに、研究は十分な進捗があったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、より詳細に検討していく点は次の3点である。1つ目は、降雨イベントごとの降雨流出プロセスの違い。2つ目は、水の滞留時間に関連する水収支。3つ目は、1つ目、2つ目を検討することで、降雨流出プロセスをモデル化することである。 1つ目について。観測した4つの降雨流出現象は、それぞれ湧水の滞留時間変動の傾向が異なった。とりわけ2015年7月の降雨イベントでは、湧水滞留時間は0年~13年の変動を示し、2016年8月の降雨イベントは9年~14年の変動を示した。この異なる傾向を、先行降水量等の降雨イベント直前における水文要素から場合分けを行い、湧水滞留時間変動の傾向が異なる要因を解析する。 2つ目について。湧水・地下水滞留時間が降雨時に短期間で大きく変化することが示された。変化の幅は最大で13年であり、その13年の変化幅は、水収支の観点から適切であるか判断する必要がある。現場での降水量・流出量・土壌や基盤岩の間隙率等から、流出に寄与しうる地下水の深度の範囲を検討し、地表から何メートルまでの地下水が湧水に寄与すれば、実測された湧水滞留時間の変動を説明できるかを示すことで、これまでの解釈の確からしさについて議論できると考えられる。 3つ目について。本研究の最終目的である。実測データ、水収支等の得られた全ての情報・検討した項目が合理的に説明できるモデルを構築する。特に、降水量や降水期間の違いに起因する降雨流出現象の特徴、各々の降雨イベントの各タイミング(降雨イベント前・流出量増大期・流出量減衰期)における降雨流出現象について合理的に説明する。 最後に、データ収集の継続について。より長期の水文データの蓄積、降雨イベント時の湧水滞留時間データの蓄積は、より詳細な個々の降雨流出現象やその比較を検討する観点から、必要不可欠である。そのため、上記の3つの今後の方策に加え、継続な水文観測を実施する。
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Research Products
(8 results)