2015 Fiscal Year Annual Research Report
電子カルテデータに基づく母集団解析法を用いた薬効動態解析
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15J00450
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
加唐 誠剛東 九州大学, 薬学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 母集団薬効動態解析 / 電子カルテデータ / 脂質異常症治療薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの医療機関で電子カルテシステムが普及した現在、患者の治療に関する情報は電子カルテデータベースに記録・蓄積されている。近年、厚生労働省が推進する医療情報データベース基盤整備事業やPMDAの電子診療情報等を安全対策へ活用するMIHARIプロジェクトなど、電子カルテデータベースを含めた大規模データを用いた医薬品の有効性・安全性を評価する研究が盛んになりつつある。このように、大量の情報が蓄積された電子カルテデータベースの利用価値は高いと考えられているが、その利活用についての検討は不十分であると言える。そこで、電子カルテデータベースを基盤とした研究として、医薬品の効果や副作用に対する影響因子(併用薬、年齢、臨床検査値など)を探索できるか、さらには患者や医療従事者に対して個別適正使用に供する情報を提供しうるかについて、脂質異常症治療薬に着目し検討を行っている。 脂質異常症は冠動脈疾患の危険因子の一つとして位置づけられており、動脈硬化性疾患予防ガイドラインでは冠動脈疾患の一次予防および二次予防の観点からトリグリセリド、HDL-C、LDL-Cの管理目標値が設定されている。従って、脂質異常症治療薬による血中脂質値の変動を予測することの有用性は高いと考え、母集団解析法を用いて血中脂質値の変動の推移を表現する母集団薬効動態モデルを構築することとした。 本年度は、データ収集を行った。対象は、福岡徳洲会病院の電子カルテデータベースより、2009年11月1日から2015年4月30日までに、脂質異常症治療薬が処方された日本人患者とした。対象患者人数は、3227名であり、それらの患者の処方歴および臨床検査値のデータを機械的に抽出した。また、各患者の電子カルテデータを閲覧し、抽出したデータの整理および精査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
下記に示す研究の進捗状況から、おおむね順調に進展していると判断した。 脂質異常症治療薬の母集団薬効動態解析に関しては、データ収集を行った。対象は、福岡徳洲会病院の電子カルテデータベースより、2009年11月1日から2015年4月30日までに、脂質異常症治療薬が処方された日本人患者とした。対象患者人数は、3227名であり、それらの患者の処方歴および臨床検査値のデータを機械的に抽出した。また、各患者の電子カルテデータを閲覧し、抽出したデータの整理および精査を行った。 DPP-4阻害薬の母集団薬効動態解析は、Journal of Diabetes and its Complicationsに投稿中である。本論文では、電子カルテデータを用いて、DPP-4阻害薬の一つであるシタグリプチンを他糖尿病治療薬に追加投与した場合における併用薬の影響を加味したHbA1cの経時的推移のモデリングを行い、個別適正化使用に供する情報の提供を目的に研究を行っている。HbA1cの経時的推移は、HbA1c生成速度定数(Kin)を阻害するモデルで表現でき、ピオグリタゾンへのシタグリプチンの追加投与は、他の糖尿病治療薬への追加投与に比べてKinを有意に低下させることを示した。 母集団薬効動態解析におけるK-PD modelを用いた共変量探索に関する検討の研究は、Population Pharmacokinetics研究会年会において口頭発表を行った。電子カルテデータでは、薬物血中濃度が得られていないデータが存在し、その場合、解析方法の一つとして、薬物の体内動態について仮想1-コンパートメントモデルを仮定して、薬効マーカーの経時的推移を表現するK-PD modelが用いられる。本検討では、CLを変動させる共変量の効率の良い探索パラメータの同定を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は母集団解析法を用いて脂質異常症治療薬における血中脂質値の変動の推移を表現する生理学的メカニズムに基づいた母集団薬効動態モデルを構築する。その際、脂質異常症治療薬のモデルにおける作用点を明らかとし、その作用点に及ぼす影響を定量的に評価する。また血中脂質値の変動に影響を与える因子を探索し、その影響因子の定量化を行う。 構築したモデルの妥当性を検証するため、モデル構築に利用したデータとは別にデータを収集し、評価用データセット(外部データ)を作成する。外部データにおける血中脂質値の実測値とモデルからの予測値を比較することで、モデルの予測性を評価する。 構築したモデルに基づいて様々な影響因子を考慮したシミュレーションを行い、その結果を臨床現場へ個別適正使用の情報として提供する。 脂質異常症治療薬における血中脂質値の病態モデルを構築することができれば、実臨床での個別投与設計に役立てられることに加えて、医薬品開発での臨床試験デザインの最適化に利用することもできる。さらにこの病態モデルは薬剤に依存しないモデルであることから、他の脂質異常症治療薬の解析をする際にはこのモデルを再利用することができるため、汎用性の高いモデルになることが期待される。以上の研究成果を学会発表及び論文として報告する予定である。
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Research Products
(1 results)