2015 Fiscal Year Annual Research Report
約38億年前の地球表層希土類金属元素循環と生命圏の解明
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15J00507
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大友 陽子 北海道大学, 工学研究院, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | イスア表成岩帯 / グラファイト / 最古の生命の痕跡 / 希土類金属元素 / 変成作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年7月にグリーンランド・イスア表成岩帯西側の地質調査を行った。地質調査の主な目標はグラファイトに富む岩石の追加採取、及び表成岩帯西側の縞状鉄鉱層の分布をおさえることにあった。これまでの調査では北部と南部の露頭記載のみを行っており,南北の層が中央部においてどのように繋がっているか詳細は不明であったが,中央部の露頭記載を進めることでこれを明らかにすることができた。 生物由来グラファイトを含有する黒色片岩,縞状鉄鉱層及び石英-緑泥石(-柘榴石)片岩 (しばしばグラファイトを含む)の誘導結合プラズマ質量分析計による全岩化学分析結果からは,これらの岩石のAl2O3,TiO2及び希土類元素 (Rare earth element; REE)は地殻砕屑物から供給されており,海洋浅部で形成された岩石はこれらの元素に富む傾向にあるが,Feを多く含むような深部で堆積した縞状鉄鉱層は砕屑物由来のAl2O3,TiO2及びREE に乏しく,REEは鉄鉱物とともに共沈した可能性が示唆された。また,黒色片岩はグラファイト含有量が高い試料ほどΣREE量が多い傾向にあった。 REE含有鉱物とグラファイトの共存関係を走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置及び電解放出型電子線マイクロアナライザで観察した。グラファイト含有量が高い試料では,グラファイトに富む部分に集中的に自形~半自形のジルコン,モナズ石及びゼノタイムが多数観察され,結晶のサイズは2,3~10μmであった。また,ジルコン結晶の周囲にモナザイトがゾーニングしている様子が多数観察された。グラファイト結晶がしばしば包有物としてモナザイトの内部に取り込まれている様子もみられた。この観察から、変成作用下でモナザイトの再結晶化とともにグラファイトの凝集が起こり,周囲のグラファイトとは異なる粒径の大きいグラファイトを形成した可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年7月に行ったグリーンランド・イスア表成岩帯西部の野外調査は,全日程を通して好天候に恵まれた。十分な試料採取及び地質図作成を行うことが出来た為,当初の予定では2015年,2016年ともに地質調査を行う予定であったが,2016年度は地質調査を行わず,採取試料の分析やデータの検討に重点をおいた研究を行うことにした。 また、分析を予定していた微小領域における年代測定ではクラックや包有物が測定範囲内にあると正確な測定値が得られない為,事前に電子顕微鏡による詳細な形態観察を行う必要があった。そこで,初年度に予定していたREE含有鉱物の抽出作業に先立ち,偏光顕微鏡,走査型電子顕微鏡及びエネルギー分散型X線分析装置及び電解放出型電子線マイクロアナライザを用いた対象鉱物の組織観察,及び年代測定を先に行うことにした。 分析対象であるREE含有鉱物は交代作用の影響を強く受けており,サイズは直径~10μmと非常に小さい。そこで,名古屋大学宇宙地球環境研究所基礎研究部門年代測定部で開発されたChemical U-Th Total Pb Isochron Method (CHIME)による年代測定を行うことにした。CHIME年代測定法は,EPMAを用いて鉱物粒子の微小部分に少量含まれるU,Th,Pbの正確な定量分析により高分解能で鉱物の形成年代史を決定する方法で,スポット径の小さい電子線 (1~数μm)を用いて分析を行う為に小さい試料の分析に適しており,測定時間も短い。CHIMEの開発・保守を担当している加藤丈典准教授と打ち合わせを行った。2016年4月から装置の外部利用申請及び共同研究を行う予定である。 総括すると、試料の微小領域分析については少し遅れているが、地質調査は予定以上に進み経費と時間の大きな節約が出来た為、全体としては順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
試料中の希土類元素含有鉱物は非常に小さく分析の確度を疑われる可能性がある為,CHIME以外の方法でも年代測定を行い,両者のデータを比較検討する必要がある。具体的にはnano-SIMSでの測定を想定しているが,まずはFE-EPMA及びCHIMEで微量金属元素の含有量及びそれらが分析に与える影響を予測しておく必要がある。 採取した試料の全岩化学分析結果からは変成流体からの希土類元素の寄与はほぼないように見えるが、ミクロンスケールの観察からは希土類元素含有鉱物の再結晶がローカルに起こっていることを示唆する様子が観察された。これらを整合させるため、新たな指標で希土類元素の移動規模を抑える必要がある。また、全岩化学分析結果では、縞状鉄鉱層中の希土類元素総量は鉄含有量と相関があるが,実際はどの鉱物に分配されているのかを確かめる必要がある。縞状鉄鉱層に含まれる鉄を含む主要な鉱物としてはマグネタイトや角閃石,クロライトがあり、これら鉱物に微量成分として入っているのか,もしくはリン酸塩または炭酸塩鉱物として晶出しているのかを確認する。 また、2015年度に採取した試料の薄片・粉末試料作製が半ばである為、これらを進める。特に変成度の高い南部縞状鉄鉱層試料は2015年度しかとっていない為,全地域の組成のバリエーションを掴む上で重要である。これらのデータから,地域ごとの化学組成の違いを詳細に描くため、誘導結合プラズマ質量分析計による全岩化学分析を追加し、データの検討を行う。 モナザイト中のグラファイト包有物について,基質のグラファイトが凝集したのか,部分的な溶解再沈殿が起こっているのかどうかを透過型電子顕微鏡観察で確かめる必要がある。後者であれば変成作用下で生物由来グラファイトが初生の特徴を無くしていく過程を見ていることになり,生命の痕跡の証拠を拡張する上で重要な観察になる可能性がある。
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Research Products
(8 results)
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[Presentation] CCS現場条件を再現するリアクターシステムの開発及びシステムを利用したCO2資源化菌の培養実験2015
Author(s)
大友陽子, 井尻暁, 池川洋二郎, 堤正純, 井町寛之, 浦本豪一郎, 星野辰彦, 諸野祐樹, 酒井早苗, 斉藤由美, 谷川亘, 廣瀬丈洋, 稲垣史生.
Organizer
平成27年度資源・素材学会北海道支部総会および春季講演会
Place of Presentation
函館市国際水産・海洋総合研究センター(北海道函館市)
Year and Date
2015-06-13