2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J00548
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平居 悠 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 銀河進化 / 銀河形成 / 化学進化 / 矮小銀河 / 銀河系 / rプロセス / 元素合成 / 超金属欠乏星 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄より重い元素の合成過程の一つであるrプロセスの起源天体は未だ不明である。連星中性子星合体は、有力なrプロセス元素起源天体の一つであるが、これまでの化学進化計算からは、連星中性子星は頻度が低く、合体するのに時間がかかるため、銀河系ハローの超金属欠乏星におけるrプロセス元素量の分散を説明できないことが指摘されている。 しかし、これまでのrプロセス元素の化学進化の研究では、銀河の力学進化は考慮されてこなかった。そこで、本研究では、銀河の力学進化とrプロセス元素の化学進化を同時に計算し、連星中性子星合体が銀河の化学力学進化の観点からrプロセスの主要な起源天体となりうるのかを明らかにすることを目的とした。 本研究には、重力・流体計算コード、ASURAを用いた。平成27年度は、本コードに超新星爆発及び連星中性子星合体による重元素の放出過程を導入し、銀河の化学力学進化計算を行えるように改良した。連星中性子星合体は、重力崩壊型超新星爆発の0.5%の頻度で起こり、合体までに1億年要すると仮定した。銀河モデルはRevaz & Jablonka (2012)で用いられた孤立した矮小銀河モデルを採用した。 本研究により、連星中性子星の合体までに1億年程度要しても、観測値に見られるような超金属欠乏星におけるrプロセス元素組成比の分散を説明できることを示した。本研究で生成された銀河の金属量の時間進化を調べると、銀河で最初の星が誕生してから最初の3億年程度は金属量が増加しないことがわかった。これは、銀河進化初期は超新星爆発による加熱効果が効率良く効き、星形成が低く抑えられていることと、銀河進化初期では、金属量の空間分布が不均一になっていることによることが明らかになった。本研究により、連星中性子星合体が銀河の化学進化の観点からも、非常に有力な起源天体といえることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の計画は、1 rプロセス元素の進化を計算可能な銀河の化学力学進化計算コードの開発、2 開発したコードを用いて矮小銀河の化学力学進化計算を行うことであった。本年度は、1、2ともに達成され、おおむね順調に研究が進展している。 1に関しては、重力・流体計算コードASURAを拡張することにより、rプロセス元素の化学力学進化計算を行えるようにした。これまでASURAで銀河の化学進化計算を行うことができなかった。そこで、本年度は、重力崩壊型超新星爆発による鉄の放出モデルと連星中性子星合体によるrプロセス元素の放出モデルをASURAに導入した。これにより、ASURAを用いて銀河中でのrプロセス元素の化学進化を計算できるようになった。さらに、孤立した矮小銀河モデルを先行研究のRevaz & Jablonka 2012に基づいて構築した。このモデルでは、銀河系や他の銀河との衝突合体や潮汐破壊といった複雑な進化過程を扱うことはできないが、銀河進化を単純化し、高分解能な計算を行うことができる。 1の成果に基づき、2の矮小銀河の化学力学進化計算を実行した。これにより、矮小銀河では、銀河進化初期の初期に超新星爆発による加熱効果により星形成が低い値に抑制されており、化学進化がほとんど進まないことが明らかになった。このような銀河で長い合体時間の連星中性子星合体が起こった場合、観測でみられるような低金属量での分散を説明できることを明らかにした。これらの結果は、既にHirai et al. 2015, The Astrophysical Journal, 814, 41として出版されている。また、これらの成果に関して複数の国際会議で発表を行った。以上のように、本年度計画されていた研究課題については、達成することができた。したがって、本年度の研究はおおむね順調に進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、孤立した矮小銀河モデルで化学力学進化計算を行った。しかし、銀河の形成過程や銀河同士の相互作用を考慮するためには、宇宙論的な初期条件から計算をする必要がある。今後は、宇宙論的な初期条件から生成した銀河を用いて、rプロセス元素の進化を計算することにより、rプロセス元素の起源天体、銀河の形成進化史を制限する。具体的には、階層的構造形成モデルに基づく宇宙論的な構造形成シミュレーションから、銀河系と同程度の質量のハローを切り出し、初期赤方偏移から、流体入りの高分解能な計算を行う。構造形成計算は、重力計算コードGadget-2を用いて行う。初期条件生成には、MUSIC コード(Hahn & Abel, 2011)を用いる。ハローの解析には、AHFコード (Knollmann & Knebe 2009)を用いる。切り出したハローの流体計算は、本年度改良したASURAコードを用いて行う。本研究により、銀河形成史とr プロセス元素の化学進化の関係が明らかになることが期待される。特に、矮小銀河が銀河系ハローの形成にどのような影響を与えているかが明らかになる。さらに、本研究による結果は、観測と直接比較が可能であり、長年議論されてきたr プロセス元素の起源天体に関してもより強い制限を与えることができる。 また、平成27年度には銀河系周辺で多くの低光度矮小銀河が発見された。これらの矮小銀河の多くは、未だrプロセス元素組成が測られていない。来年度は、これらの銀河中の星のrプロセス元素組成を銀河中の星の高分散分光観測の観測提案を行う。観測は、すばる望遠鏡高分散分光器を用いて、2晩程度を見込んでいる。これに加えて、VLTを用いたフランスのグループとも共同研究を開始する予定である。
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Research Products
(8 results)