2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J00548
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平居 悠 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 銀河進化 / 銀河形成 / 化学進化 / 矮小銀河 / 銀河系 / rプロセス / 元素合成 / 金属欠乏星 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、下記の2点に関して研究を実施し、論文を出版した。 (1)銀河の星形成史とrプロセス元素組成の関係の解明 銀河系周囲の矮小銀河は多様な星形成史を持つことが知られている。しかし、矮小銀河の星形成史とrプロセス元素組成の関係は未だ明らかではない。本研究では銀河の星形成史とrプロセス元素分布の関係を明らかにすることを目的とし、異なる構造、質量を持つ銀河の化学力学進化シミュレーションを行った。その結果、中心密度が高い銀河ほど、初期の星形成率が高くなり、高い金属量でrプロセス元素が現れていることが明らかになった。これらの結果から、銀河系ハローの低金属量星のrプロセス元素組成の分散は、中心密度の低いハロー由来、高い金属量を持つ星は、中心密度の高いハロー由来であることが示唆された。本研究により銀河進化史とrプロセス元素分布の関係を明らかにし、rプロセス元素を指標として銀河進化を明らかにする足がかりを作った。 (2)金属欠乏星の化学組成による元素の混合効率の制限 元素の混合過程は銀河の化学進化、初代星の観測的証拠、星形成、星間乱流に至るまで幅広い分野、スケールにおいて重要な役割を果たす。しかし、超新星爆発、連星中性子星合体などで放出された元素が銀河中でどのような効率で混ざっているのかは不明である。矮小銀河は銀河系と比較すると、高いrプロセス元素組成を持つ星が少ない。そこで、rプロセス元素に注目し、星間乱流モデルによる元素の混合過程を導入した銀河の化学力学進化シミュレーションを行った。その結果、矮小銀河における低いrプロセス元素組成を再現するためには、高い混合効率が必要であることを明らかにした。この場合の元素の混合時間を計算すると、400万年程度となり、銀河の力学時間(1億年程度)より十分に短くなっていることを発見した。本研究により、天文学的な観点から元素の混合効率を制限した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、(A)矮小銀河の化学力学進化シミュレーション、(B)銀河系の宇宙論的ズームインシミュレーションを実施した。これにより、今後実施予定の大規模な銀河形成シミュレーションへの準備を進めることができた。 (A)矮小銀河の化学力学進化シミュレーション 矮小銀河の化学力学進化シミュレーションを通じて、(1)矮小銀河の星形成史とrプロセス元素組成の関係、(2)銀河中における元素の混合効率を明らかにすることを目的とした研究を行なった。(1)では、銀河ハローの中心密度が銀河の初期進化に大きく影響することが明らかにした。この研究は、今後実施予定の宇宙論的シミュレーションの結果を解析する際の基礎となる。 (2)では、新たに数値計算コードに導入した星間乱流に基づく元素の拡散モデルを用いて、異なる元素の混合効率で矮小銀河の化学力学進化を行なった。これにより、銀河中では、元素が400万年程度で混ざっている必要があることを示した。平成29年度に実施する銀河形成シミュレーションにおいては、この研究により制限された元素の混合効率を適用する。 (B)宇宙論的ズームインシミュレーション 宇宙論的ズームインシミュレーションでは、重力計算のみの低分解能な構造形成シミュレーションから、計算対象の銀河周囲のみを切り出し、高分解能な計算を行う。粒子分割による初期条件の生成には、初期条件生成コード、MUSICを用いた。高分解能シミュレーションには、重力・流体計算コード、「ASURA」を用いた。平成28年度には、高分解能シミュレーションを行うための構造形成シミュレーションを実施した。さらに、このデータから、銀河系サイズのハローを取り出し、宇宙論的ズームインシミュレーションを実施した。これにより、宇宙論的ズームインシミュレーションの基本的技術のテストを完了した。以上から、概ね順調に研究が進展したと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、下記の(1)から(3)に従って研究を進める。 (1) 平成28年度に実施した宇宙論的構造形成計算のz = 0 での結果から、高分解能で計算する銀河系サイズのハローを切り出す。進化史が異なる場合を考慮するため、本研究では10 個のハローを切り出す。 (2) 切り出したハロー領域を高分解能にした初期条件を生成する。初期条件は、4 レベルズームインしたものと8 レベルズームインしたものを作成する。 (3) これらの初期条件を用いて、高分解能なN 体/流体計算を行う。計算には、重力・流体計算コード、ASURAを用いる。計算はz = 100 から開始し、4 レベルzoom-in したものはz = 0 まで行う。本研究で扱う低金属量でのr プロセス元素分布は、銀河形成初期の進化に大きく影響される。したがって、銀河形成初期の進化を高分解能な計算行うことにより、r プロセス元素分布の進化をより詳細に明らかにできることが期待される。8レベルzoom-in した高分解能な初期条件では、z = 0 までの計算を現実的な時間内に終えることは難しいが、z = 3 までの計算を行うことにより、銀河形成初期の進化を重点的に調べる。 これらの研究により、銀河系ハローと矮小銀河で異なるr プロセス元素分布が生じるメカニズムを解明できる。さらに、銀河系ハローの構成要素と現在観測されている矮小銀河の関係が明らかになることが期待される。r プロセス元素分布を銀河の進化史指標として用いることは未だ確立されていないが、本研究により、r プロセス元素分布を銀河進化史の指標として用いる手法を確立できる。これを足がかりに、今後銀河系の初期形成史を明らかにできると期待される。
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Research Products
(12 results)