2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J00561
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 園子 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ジュール・シュペルヴィエル / フランス近現代詩 / 叙情 / 距離 / コミュニケーション / ジャン・ポーラン / 手紙 / 『泉に飲む』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀のフランス語詩人であるジュール・シュペルヴィエル(1884-1960)の作品を対象に、不在と伝達というテーマのもと、シュペルヴィエル固有の詩的言語を明らかにすることを目的とする。そのための方法として、文学理論を援用しつつ行うテクスト分析(テーマ分析、形式分析)と、往復書簡や草稿原稿といったテクスト外の資料の分析という二つの手法を用いる。 研究実施計画で述べたとおり、昨年度から引き続き「不在と伝達」という包括的な主題を支える個別のテーマとして、「汎-共感(Pansympathie)」、「距離(distance)」、「叙情の宛名(adresse lyrique)」に着目し詩作品全体の緻密な読解を進めると同時に、議論を支える理論的な枠組みの構築を行った。具体的な研究実績としては、自伝的散文作品『泉に飲む』の読解を中心にシュペルヴィエルの詩学におけるピレネーの土地の持つ意味を確認し、韻文作品『オロロン・サント・マリー』の音韻論的分析へとつなげる形で、「汎―共感」が死者へと向けられる過程を分析し、9月にフランスで行われた「アキテーヌ地方の作家」をテーマとする学会において『縫合の詩学―ジュール・シュペルヴィエルのアキテーヌ巡礼―』と題する口頭発表の形で成果を報告した。また、昨年度から引き続き往復書簡の実証分析を通して、シュペルヴィエルの文学理論の解明に努めた。具体的には、昨年度収集したヴァレリー・ラルボーとの間で交わされた往復書簡の読解を引き続き行ったほか、ジャン・ポーランとの往復書簡の読解に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れていると判断する。散文作品と韻文作品の読解をつなぐ形でシュペルヴィエルの詩学におけるピレネーの土地と死者の関係を明らかにし、上記の口頭発表の形でまとめることができた点は評価できる。しかし、当初の研究計画のうち、詩集『未知の友だち』と『世界の寓話』に代表される中期作品を集中的に読解し、主題、形式、テクストの社会的背景およびテクストの相関関係に着目しながら解明するとした研究課題については、今年度中にまとまった成果を公表することができなかった。同じく、昨年度課題として挙げていた、自伝的主体と叙情的主体の関係の検討に関しては、より広いテクストを参照しつつ行う必要があると考える。また、往復書簡の読解はまだ途上にある。
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Strategy for Future Research Activity |
シュペルヴィエルの文学理論において「透明な難解さ」という概念が、他の作家との交流、とりわけ書簡を通した交流によっていかに形成されていったのかを分析し、ラルボー、ポーラン、エティアンブルがシュペルヴィエルの文学理論構築の中でそれぞれ別の役割を担っていることを明らかにする。また、初期、中期作品における文学概念と形式の相克を、象徴主義、ロマン主義、モデルニスム、シュルレアリスムとの位置関係の中に描き出すことを試みたい。 さらに、詩句の構造およびテクスト生成過程における詩句の音韻論的修正を考察し、詩句の中でいかに「透明な難解さ」の概念が実践されるかを検討する。
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Research Products
(1 results)