2015 Fiscal Year Annual Research Report
スポーツ競技者の健康と競技力向上のためのマインドフルネス・プログラムの開発
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15J00604
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
雨宮 怜 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | マインドフルネス / スポーツ / アスリート / バーンアウト / パフォーマンス / 実力発揮 |
Outline of Annual Research Achievements |
スポーツ競技者のバーンアウトは、深刻なメンタルヘルスの問題を導く危険性がある(大隈・西村,2002; Smith, 1986)。そのため、早急な支援が求められる一方、従来のメンタルヘルス向上を目的とした心理サポートでは、スポーツ競技者が期待するパフォーマンス面への効果を得ることは難しく、心理サポートの利用率の低さを導く可能性がある。そのことから、スポーツ競技者のニーズである、パフォーマンスとメンタルヘルスの双方を向上させることが可能な支援法の提供が求められる。 そのような効果を有することが期待される支援法として、マインドフルネスが挙げられる。しかし現在に至るまで、スポーツ競技者のマインドフルネスとメンタルヘルスおよびパフォーマンスとの関係性については検討されていない。 そこで、平成27年度は、縦断調査による、スポーツ競技者のマインドフルネスと将来のメンタルヘルスやパフォーマンスとの関連性および、マインドフルネス技法の効果について、質的に検討することを目的とし、以下の知見をまとめた。 1. 縦断調査による、スポーツ競技者のマインドフルネスと将来のバーンアウトおよびパフォーマンスとの関連性について検討を行った。その結果、マインドフルネスが将来の感情抑制傾向や抑うつと負の関係を示し、その結果バーンアウトに対して負の関係性を示すという間接効果が確認された。さらに、スポーツ競技者のマインドフルネスが、将来の自信や試合時の実力発揮を導くことが示された。 2. 1の研究結果をもとに、マインドフルネス技法がスポーツ競技者に与える効果について質的に検討するために、実験的な介入研究を行った。その結果、「注意制御」、「思考制御」、「感情制御」、「自己客観視」、「身体感覚への気づきの鋭敏化」といった効果が示された一方、マインドフルネス・プログラムの阻害要因も明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究の進捗状況として、当初の計画以上に進展していると評価することができる。本研究課題は、スポーツ競技者の健康と競技成績向上を目的としたマインドフルネス技法の開発を目的としているが、実際にマインドフルネス技法をスポーツ競技者に対して実践するためには、その技法の「安全性」と「効果のエビデンス」の双方を確認する必要がある。そこで申請者は、総計200名を超える現役の大学生スポーツ競技者を対象とし、スポーツ競技者が有するマインドフルネス特性が、将来のメンタルヘルスとパフォーマンスに対してどのように作用するのか検討するために、4回にわたる縦断調査を実施している。すでに3回目の調査が終了しており、調査は概ね順調に進んでいる。また、これらの調査を参考に、スポーツ競技者個人と集団に対する、マインドフルネス・プログラムの実践を行い、その効果検証を質的に検討している。その結果、マインドフルネス・プログラムを実践することによって、認知・心理・身体的効果が確認された一方、従来のマインドフルネス・プログラムをスポーツ競技者に対して実践するには、様々な課題が散見されることが明らかとなった。 上記の研究成果は、すでに合計4本の学術論文が本年度において学術雑誌に受理・掲載され、2本の学術論文は投稿中である。つぎに、ポスター発表として「競技者の内発的動機づけ向上へのマインドフルネスの活用―調和的・執着的情熱を基準とした競技者のタイプ別比較―(第2回マインドフルネス学会最優秀研究賞)」、「パフォーマンス発揮の阻害とマインドフルネスとの関係性」、「スポーツ競技者のパフォーマンス低下体験に対するマインドフルネスの抑制効果」、「体育実技へのマインドフルネス・プログラムの導入」の4件の報告を行い、研究成果の報告を積極的に行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度において、スポーツ競技者に対するマインドフルネス・プログラムの予測を行うための縦断調査および、マインドフルネス・プログラムを実践することによる効果について質的な検討を行った。その結果、縦断調査においては、スポーツ競技者に対するマインドフルネス・プログラムの効果が予想されたものの、従来のマインドフルネス・プログラムをスポーツ競技者に対して実践することについて、「時間的な制約」や「スポーツ競技とマインドフルネス・プログラムの条件の不一致」といった課題が散見された。 そのため、平成28年度においては、上記の縦断調査を継続し、4時点におけるスポーツ競技者のマインドフルネス特性が将来のメンタルヘルスやパフォーマンスの変化に及ぼす影響性について予測し、より強固なエビデンスの構築を実施する。さらに、先の質的研究によって得られた、マインドフルネス・プログラムの課題をもとに、臨床・健康・スポーツ心理学の専門家間での協議を行い、スポーツ競技者を対象としたマインドフルネス・プログラムの開発を行う予定である。プログラム開発後、そのプログラムをスポーツ競技者に対して実践し、効果について量的・質的な視点から実験的な検討を行う。トライアルを数回実施したのち、完成したプログラムだけではなく、従来、一般的に実践されている心理プログラム法やコントロール条件を交えて、効果の比較検討を行う予定である。 このような研究成果について、早急に「日本スポーツ心理学会」や「日本健康心理学会」大会において、研究報告を行う予定である。さらに、平成27年度実施研究であり未だ未発表の研究結果および、平成28年度得られた研究結果についても、学術大会での研究報告の際に得られた他研究者の意見や指摘を参考に、学術論文を執筆し、国内外の学術雑誌へ投稿する。
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Research Products
(10 results)