2015 Fiscal Year Annual Research Report
転写共役因子PGC1アルファによる骨格筋アミノ酸代謝調節の分子機序解明
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15J00645
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
畑澤 幸乃 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 運動 / 骨格筋 / 遺伝子発現 / 生活習慣病 |
Outline of Annual Research Achievements |
骨格筋は人体で最大の組織であり、エネルギー代謝、糖取込み、運動において重要な役割を果たす。そのため、骨格筋機能の保持・活性化は健康増進の観点から重要である。適度な運動は骨格筋機能を向上し、生活習慣病予防・改善に有効である。申請者の所属する研究室ではこれまでに、運動により骨格筋において著しく発現誘導される転写調節因子PGC1αに着目し、骨格筋特異的PGC1α過剰発現マウス(PGC1α-Tgマウス)を作製した。このマウスは骨格筋の顕著な赤筋化が生じ、持久運動能力が向上したことを報告した。しかし、どのようなメカニズムで持久運動能力が向上したかは明らかではなかった。本研究において申請者はPGC1α-Tgマウスの骨格筋の代謝変化を、遺伝子発現および代謝産物の網羅的変化の観察により明らかにすることを試みた。 メタボローム解析により、PGC1α-Tgマウスの骨格筋中の低分子代謝物の変動を網羅的に解析した。その結果、TCA回路の代謝産物の量の増加が観察された。そして、TCA回路の基質となりうるBCAAやβ-アラニンを含むアミノ酸の量が顕著に減少していた。さらに運動時に活性化することが知られているプリンヌクレオチド回路とアスパラギン酸-リンゴ酸シャトルの代謝産物の量が増加した。これらの結果から、PGC1αがアミノ酸を含む様々な基質を利用してTCA回路を活性化し、運動時のエネルギー源としている可能性が示唆された。(Hatazawa et al. PLoS ONE, 10: e0129084, 2015)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究は順調に進捗しており、これまでの研究成果を筆頭著者として英文専門誌に発表した(Hatazawa et al. PLoS ONE 10:e0129084, 2015)。さらに、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry誌に共同著者として論文を投稿している。また、2015年5月に第12回アジア栄養学会議にて英語で口頭発表を行い、Young Investigator Awardを受賞した(1483題中18題が選出)。くわえて、国内外の学会や研究会において研究成果を積極的に発表している(国際学会; 口頭発表 1件、ポスター発表; 1件、 国内学会; ポスター発表 3件)。そして、研究成果及びプレゼンテーション能力が評価され、日本アミノ酸学会大会にてポスター賞(金賞) (2015年10月)を受賞した。これらの業績により、2016年3月に京都府公立大学法人理事長表彰を受けた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、PGC1αがBCAA異化及びアラニン合成を促進させることが示唆された。そこで次年度ではPGC1αにより直接、BCAA異化酵素、アラニン合成酵素遺伝子の転写が活性化されるか調べる。そのために、BCAA異化の律速酵素(BCATやBCKDH)及びアラニン合成の律速酵素(ALT)の遺伝子プロモーターに関して、PGC1αによる転写制御機構を明らかにする。レポーターアッセイおよびクロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイを行い、PGC1αがBCATやBCKDH及びALTを直接の標的としているかどうかを検討する。 平成27年度に行ったメタボローム解析においてPGC1α-Tgマウスの骨格筋ではβアミノイソ酪酸(BAIBA)を含む様々なアミノ酸関連分子の量が顕著に増加していた。最近、運動時の骨格筋においてBAIBAが分泌され、白色脂肪組織を褐色化してエネルギー消費を増加させるという報告がなされている。そのためPGC1α-Tgマウスの骨格筋で増加したアミノ酸が骨格筋から分泌され、他臓器に影響を及ぼす新たな生理活性物質(マイオカイン)である可能性がある。すなわち、運動による生活習慣病改善等の臓器間相互作用の効果を説明する新たな機序であるかもしれない。そこで、PGC1αの過剰発現により増加したアミノ酸関連分子が生活習慣病の標的である臓器の細胞に作用する可能性を検討する。培養細胞にこれらを添加し、表現型の変化を観察する。 さらに研究内容に関して積極的に学会や論文として発表する予定である。
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Research Products
(8 results)