2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J00653
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
新川 拓哉 千葉大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 現象的意識 / 幻覚 / 内観 / 素朴実在論 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度における本研究の主な成果は次の通りである。これらの研究成果は、どれも経験の現象的性格を解明するために重要である。 (1) 幻覚経験を想像経験と類比的に捉えることで、幻覚の現象的性格についての新しい理論の構築可能性を提示した。また、他のさまざまな幻覚経験についての理論を検討し、Heather LogueやWilliam Fishによって提唱された「幻覚には現象的性格がないとする立場(消去主義)」や、DokicとMartinによって提案された、「幻覚経験は実在感(feeling of reality)によって特徴付けられる」とする立場を批判した。 (2)現象的意識に対する内観についてのさまざまなモデルを検討し、私たち自身の現象的意識のあり方についての判断(「私の意識にはいま赤いリンゴが現れている」といった判断)の可謬性が、そうした判断を形成する際にどのような概念を用いるかに応じて変動すると論じた。 (3)知覚的な現象的意識が外界の対象によって構成されている、という素朴実在論的立場を前提すると、認知的に正常な主体(統合失調症等の状態にない主体)でさえ、自身の現象的意識が知覚的特性をもつかどうか(知覚経験を実際にもっているかどうか)について誤りうることになる、と論じた。この議論は、現象的意識の外在主義的理解の可能性を開く。現象的意識の外在主義とは、現象的意識が脳活動にスーパーヴィーンするという考えを否定する立場である。 (4)「視覚経験の現象的性格のあり方が、同時に異なる複数の性質によって決定される」という考えは整合的ではないと論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ここで「やや遅れている」を選択した理由は、研究自体の進展にかかわるものではなく、そのアウトプットにかかわるものである。 平成27年度には、国際会議等での複数の口頭発表やその際のディスカッションを通じて、多くの知見を得ることができた。そのため、研究そのものは大きく進展したといえる。しかし、国際学術雑誌「Theoria」に投稿した論文がリジェクトされたり、また、本研究開始時に設定した仮説に問題があることが示され、再度論文の構成をやり直す必要が出たりなど、アウトプットの観点からみると十分であったとは言えないと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には、国際会議等での口頭発表やGlasgow大での在外研究を通じて、多くの重要な知見を得ることができた。しかし、「現在までの進捗状況」で述べたように、アウトプットの面では十分ではなかった。したがって、今後は、これまでの研究をまとめて複数の論文として結実させ、具体的な成果を得ることを最重要とする。 また、内観と現象的意識についての関係や、現象的意識の存在論や認識論についてはかなりの進展がみられたものの、視覚経験以外の知覚モダリティにおける意識経験についての研究には着手できなかった。したがって、今後はそうした研究にもフォーカスしていく。
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Research Products
(4 results)