2015 Fiscal Year Annual Research Report
19・20世紀の共済組合と医療 -公私福祉ミックス形成の実態と論理-
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15J00722
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小西 洋平 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 共済組合 / 連帯 / メディカリゼーション / 福祉ミックス / フランス第二帝政 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年には、「フランス第二帝政期における共済組合―防貧とモラル化のためのプレヴォワヤンス―」『社会政策』(第6巻第3号、2015年)を発表した後、査読付き論文の2本目となる「連帯と共済―19世紀フランスにおける共済運動の展開―」『社会文化』(第18号、2016)を作成した。前者の論文では、研究課題の目的である19世紀フランスにおける共済組合の特徴を数的・質的アプローチから解明し、これまで制度史的な観点からのみ分析されるにとどまっていた共済組合史を初めて社会史的な観点から取り上げた論文となった。後者の論文は、前者の論文が共済組合の大枠を捉えることを主眼としているならば、共済組合のミクロな運動に焦点をあてたものであった。伝統的な社会集団からの慣習を継承しながらも組織活動を変化させていく近代化の過程と重なるような共済運動の実態を明らかにした。 さらに、共著者として「19世紀フランス社会のメディカリゼーション―中間集団としての共済組合の役割―」『社会保障の公私ミックス論』(松田亮三、鎮目真人編著、ミネルヴァ書房、2016)を執筆した。この論文は、19・20世紀フランスの共済組合の活動実態への接近を試みるものであった。特に共済組合がその出現以来独自の活動領域としていた医療・社会福祉活動でどのような救済機能を展開させていったかを、フランス社会史研究上のメディカリゼーションという概念に照らし合わせながら明白にしていった。限られ、散逸した共済組合の一次資料の中でその医療・社会福祉活動への接近は困難なものであるとされていたが、それだけにこの論文で明らかにされた内容は大きな意義を持つものだと思われる。 これらの研究発表に加えて、2016年2月から3月にかけてパリへと資料収集と調査に出かけ、重要な史料群の収集と伴にフランスの共済組合研究者に現在の研究状況についてインタビューすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年には、「フランス第二帝政期における共済組合―防貧とモラル化のためのプレヴォワヤンス―」『社会政策』(第6巻第3号、2015年)を発表し、翌年には査読付き論文の2本目となる「連帯と共済―19世紀フランスにおける共済運動の展開―」『社会文化』(第18号、2016)を作成した。さらに、共著者として「19世紀フランス社会のメディカリゼーション―中間集団としての共済組合の役割―」『社会保障の公私ミックス論』(松田亮三、鎮目真人編著、ミネルヴァ書房、2016)を寄稿した。これらの研究業績からして本年度は、 研究課題である「19・20世紀の共済組合と医療―公私福祉ミックス形成の実態と論理―」を理論的にも実証的にも緻密に研究遂行できたように思われる。これら3論文によって、フランスの福祉国家形成過程において、公私福祉ミックスの先駆的形態としての共済組合がどのような役割を果たし、特に共済組合が19・20世紀に主たる活動領域としていたメディカリゼーション (医療の民衆化)をどのようにして実現していったのかを思想史的観点と実証的な歴史考証という観点から分析できたと言いうるであろう。 しかしながら、本年度に予定していた、ミシェル・ドレフュス著、深澤敦、小西洋平訳、『(仮題)共済組合 今や接近可能な歴史』(晃洋書房、2016刊行予定)の出版にまで至らなかったという点で反省が残される。出版作業に滞りが生じたのは、原著が四半世紀前に出版されたものだということで、現在までの共済研究を含めた補論を原著者であるミシェル・ドレフュス氏に依頼したからであり、また60ページにもわたる補論と日本語版序文が追加されたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題「19・20世紀の共済組合と医療―公私福祉ミックス形成の実態と論理―」の最終目的である公私供給の相互作用を通じたよりよき社会福祉システムの構築の可能性の模索を達成するために、特に2つの領域に焦点をあてて研究を遂行したい。 第一に、共済組合における「社会衛生」の理論と実践を解明することである。というのも、共済組合を運営する上で最も重要な概念であるプレヴォワヤンスの中には貯蓄に加えて衛生という実践が含まれているからである。特に19世紀以降「社会衛生」という考え方が共済組合内部で普及するようになり、第三共和政にはサナトリウムや無料診療所、母子共済などによって社会衛生が制度化されるようになっていった。 第二に、1898年の共済組合憲章の成立過程とその影響を分析することである。1930年にフランスで社会保険制度が形作られる際に「共済組合主義的特徴」を持つようになるのがこの1898年以降の福祉国家形成過程における共済組合の独自の位置取りに起因するからである。戦後の社会保障システムに至るまでの共済組合の影響関係をたどることによって、福祉ミックスの歴史的経路をよりよく見出すことが可能となるのである。 本年度はこれら2つの領域を中心にして、論文作成・発表をおこない、最終的には京都大学大学院に提出するための博士論文を作成する。博士論文作成の際には、これまでの研究論文を単純に寄せ合わせるだけではなく、複線的な福祉国家形成の過程を描き出すように、ロベール・カステルやピエール・ロザンヴァロンといった福祉国家研究者の先行研究を参考にする予定である。
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