2015 Fiscal Year Annual Research Report
好白蟻性ハネカクシの多様性と寄主シロアリ社会利用の実態解明
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15J00725
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金尾 太輔 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 種多様性 / ヒゲブトハネカクシ亜科 / Discoxenus属 / 好白蟻性 / 種特異性 |
Outline of Annual Research Achievements |
好白蟻性ハネカクシの種多様性の解明を目的として、マレーシアとコスタリカにおいて野外調査を行った。マレーシアでは、これまで2個体しか得られていなかった種を複数採集し、コスタリカでは3未記載種を含む新熱帯区に特有な種を採集した。これに加えて、シミ目、ハチ目、ハエ目などからも未記載種を含む多数の好白蟻性種を採集した。 分類学的研究では、これまで好白蟻性昆虫の記録が全くなかったカンボジアより、好白蟻性Discoxenus属ハネカクシ8種を新種記載した。Discoxenus属には、これまでOdontotermes属シロアリを寄主とする9種の既知種が知られていが、本研究で記載した8種のうち6種は、Hypotermes属シロアリを寄主とすることが分かった。未調査国・地域が残される東南アジアにおいて、今後も継続した種多様性調査が必要である。 系統学的研究では、好白蟻性ハネカクシの種間比較とヒゲブトハネカクシ亜科内における好白蟻性分類群の系統的位置の推定にむけ、上述の野外調査で得られた標本を中心にDNA実験を行った。これまでにDNA情報が全く得られていないものや採集地が異なる合計48種63個体からDNAを抽出し、すべての個体においてミトコンドリアCOI・COIIを、上位系統関係の推定に用いる43個体についてはさらにミトコンドリア16Sおよび核18S・28S領域の配列を対象に実験を行った。 生態学的研究として、アシナガシロアリを寄主とするハネカクシを対象に行った行動実験の成果の論文執筆を進めている。本実験では、寄主シロアリが、同じコロニーから得られたハネカクシに対しては全く攻撃を示さなかったにも関わらず、他コロニーのハネカクシに対しては激しい攻撃行動をとる傾向がみられた。このことから、ハネカクシが寄主コロニーと特異的に関わっていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コスタリカにおいて野外調査を実施したことで、対象とするコウチュウ目ハネカクシ科ヒゲブトハネカクシ亜科の新熱帯区に特有な分類群を得ることができた。これらを今後の解析に用いることで、系統関係の推定はより信頼性を増し、混乱する亜科体系の改善に大きく貢献すると考えられる。また、ハネカクシ以外の好白蟻性昆虫が得られたことは、分類群間の進化史の比較などを可能するため、今後の研究の発展にとって大きな成果である。 分類学的研究では、これまでの野外調査で得た複数の未記載種その中から、Discoxenus属ハネカクシ8種を新種記載した。これまでに好白蟻性昆虫の記録が全くなかったカンボジアより記載したことは、好白蟻性昆虫種の多様性解明に向け大きな意義がある。現在は、さらにオオシロアリを寄主とするハネカクシ1新属5新種の記載も進めている。 系統学的研究では、新熱帯区特有の分類群や希少な分類群を用いてDNA実験を実施し、来年度に実施する系統解析に向けて重要なDNA情報を蓄積することができた。これらに加えて、来年度にアフリカで野外調査を行い、よりDNA情報を充実させることで、汎世界的に種を網羅した系統関係の推定が可能になる。 生態学的研究では、予定していた好白蟻性ハネカクシの化学擬態の検証において、予備的に行ったGCMS分析で予期せぬ物質が検出された。来年度はこの特殊性を説明するため、比較対象として複数の分類群を用いて分析を進める。また、その他の生態学的研究として予定していたハネカクシの食性分析については、共同研究者の都合により来年度5月に実施することになった。これらに加えて、生態がほとんど分かっていない好白蟻性ハネカクシの、飼育観察を行っており、これまでにいくつかの新知見を得た。 以上より、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
好白蟻性ハネカクシの種多様性の解明を目的として、マレーシアにおいて継続して野外調査を実施する。また、本年度より調査許可を申請中のケニアで2週間程度の調査を行う(6月を予定)。 分類学的研究では、現在記載中のオオシロアリを寄主とする好白蟻性ハネカクシ1新属5新種に加え、アシナガシロアリを寄主とするハネカクシの新種記載および好白蟻性Termitohospitini族の再検討を行う。 系統学的研究では、ケニアで行う野外調査で得られる標本を用いてDNA情報を充実させ、系統解析を実施するとともに、年度中に成果を論文として発表することを目指す。また、東南アジアに分布するアシナガシロアリと本シロアリを寄主とするハネカクシを対象にDNA実験を実施し、種分化の歴史を推定する。 化学生態学的研究では、アシナガシロアリを寄主とするハネカクシに加え、ヤマトシロアリやイエシロアリを寄主とするハネカクシについても分析を行い、好白蟻性ハネカクシにおける化学擬態の普遍性を調査する。好白蟻性昆虫の食性推定については、5月にマレーシアで調査を行い、年度中に分析を行う。これらに加えて、好白蟻性ハネカクシの飼育観察を継続し、これまでほとんど分かっていない基礎的な生態情報を蓄積させる。
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Research Products
(8 results)