2015 Fiscal Year Annual Research Report
細胞及び組織階層のバイタル定量を目指した、熱輸送モニタリング法の提唱とその実証
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15J00758
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
片山 貴志 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞工学 / 組織工学 / バイタル計測 / 伝熱解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では低侵襲・物質非特異的に、細胞及びミクロ構造組織内部に発現しているダイナミクスを計測することにより、バイタルを定量表現できる計測法の提案とその実証を目指している。提案した方法は、微小空間内において迅速・微量な熱印加を行い、試料内で時々刻々広がっていく熱輸送現象を計測・解析するという、全く新しい発想である。細胞・組織工学領域において最も重要な観測方法として運用されているイメージ解析法を補完して、来るべき患者一人一人に向けた細胞・組織の大量生産時代に備えることを目指す。 初年度となる27年度には、提案当初から掲げていた、a)細胞の生命活動に影響を与えない温度変化としてΔ1℃未満の加熱、b)μmの深さ方向分解能を実現するための1μsオーダーの高速測定、c)精密な解析を実現するための0.001℃オーダー分解能、という数値目標に対して、25nJの微少熱量で実現できる目途を得ることができた。これは単一細胞が発生させる熱量として報告されている量と十分に比肩しうる領域に到達できており、生体にとって十分許容される刺激での精密熱応答計測に大きく前進したと考える。 また合わせて、MEMSセンサの設計指針を得るための理論的検討を実施した。金属薄膜で形成され、電流印加により熱源と測温体としての機能を併せ持つことになるセンサパターンを矩形熱源と仮定し、当該境界条件下で熱伝導方程式の解を求め、その関数形に関する解析を実施した。幅・長さの形状因子に対して加熱及び待機時間を設定した場合に形成される温度場の関数形から、伝熱に係る物性値を適宜抽出できる条件を確定させることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、移植用細胞や組織の大量培養で決定的に重要となることが予想される、個別試料の非侵襲的品質管理手法の構築を目指し、現在最も重要と位置づけられているイメージ解析法を補完できる方法の提案に取り組んでいる。細胞・組織内に存在する物質の輸送現象に代表されるような“ダイナミクス”に感度が持たせられる計測法がカギになると考え、細胞レベルのスケールにおける熱の拡散現象をモニタリングできる新しい方法を考案し、理論的・実験的な実証に取り組んでいる。 初年度となる27年度には、必要となる性能を達成するための回路アーキテクチャを考案し、基礎となる必要な数値目標が達成できることを実証することができた。温度計測では一般的に精密さと応答速度の両立は困難であるとされているが、伝熱理論および計測回路理論の両側から歩み寄り、従来では行われていない変化の積分値計測という方法論に変換することで実現することができた。 MEMSセンサの設計戦略は、熱源を中心とした温度場の時間発展を設計することで熱源からの熱流を、加熱時は一次元的流れから軸対称的な流れの間に、待機時は点対称的になるようパラメータを設定することである。前者領域においては方程式の解形から熱伝導率・熱拡散率の分離が可能となり試料の熱物性情報を抽出できる。後者領域では印加した熱の散逸が3/2乗則に従うことになり、実用的な測定条件下で試料を過剰に加熱することなく繰り返し測定を実施することが可能となる。今期得られたパラメータ方程式によって至適なセンサ設計を実施することが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる28年度には、前年度に確立した技術を応用して実際の生体試料の計測に取り組むことで、細胞及び組織階層のスケールに存在する生命現象を検出できることを実証する。現在細胞及びミクロ組織のスケールで、物質の輸送や微小構造を確認する方法はイメージ解析に頼っている。特に外形に係るモルフォロジー以外については、蛍光染色法による解析がほぼ唯一の方法である。この方法は細胞生物学として生命現象を解明するためには強力な方法であるが、移植用細胞や組織の観察法としては利用が困難であり、厳密な手順の管理などで縛り付ける方向に進んでいる。作業量の増大は再生医療拡大にむけた大きな障害になることが予想されることから、異常検出法の確立は急務である。 当該年度には、初めに前年度確立できたセンサ構造設計基準を元に実際の細胞計測に利用できるMEMSセンサを作製し、その計測性能の評価を実施する。評価用の無生物試料を対象として、伝熱3物性とセンサ出力との相関を確認するとともに、想定される生体試料近傍の物性に対して検出性能が最適化されるような設計検討を進める。 最後に確立されたセンサ上での細胞培養を実施し、動態観察に挑戦する。基本となる細胞の生命維持活動を生化学的手法により阻害し、バイタル状態の変化に対する検出性能を確認していく。エネルギー源となる培地養分、細胞構造を維持するために必要な細胞骨格などの働きを阻害することや、熱ショック応答などの外乱によって誘発される防御的な目的の生合成現象の変化をとらえることなどに取り組む予定である。
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Research Products
(1 results)