2015 Fiscal Year Annual Research Report
ゴキブリ目の比較発生学的研究-網翅類、多新翅類の系統進化の再構築を目指して-
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15J00776
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤田 麻里 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 昆虫比較発生学 / グラウンドプラン / 系統進化 / 多新翅類 / 網翅類 / ゴキブリ目2亜目体系 / ムカシゴキブリ科 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの系統学的研究にも関わらず、ゴキブリ目内の類縁関係、さらに高次系統の網翅類や多新翅類の系統進化に関する議論は意見の一致をみないままである。比較発生学的アプローチは、昆虫類の系統学的議論やグラウンドプランの構築において最も有効な方法の一つである。ここにあって、予備的研究では、「胚運動」という観点から、網翅類は「網翅類=カマキリ目+(オオゴキブリ亜目+(ゴキブリ亜目+シロアリ目))」と理解できることを示唆した。この理解を作業仮説として網翅類、多新翅類の系統学的議論を発展させるには、ゴキブリ目が大きく二つに分けられるという「ゴキブリ目の2亜目体系」の妥当性の検証が重要である。本研究課題の目的は、ゴキブリ目のグラウンドプランおよび目内の系統学的体系を再構築し、ひいては網翅類、多新翅のグラウンドプランと系統進化の再構築に資するべく、上述の「ゴキブリ目の2亜目体系」を比較発生学的に検証することにある。以上背景から、ゴキブリ目の網羅的比較発生学的研究を計画した。 本年度は、オオゴキブリ亜目の最原始系統群であるムカシゴキブリ科の発生学的研究を継続し、卵と胚の外部形態データの補完を行った。検討の結果、1) ゴキブリ目でみられた「複数の卵門の卵腹面での局在」を網翅類の固有派生形質として理解、2) ゴキブリ目の胚形成様式について詳細に、また、胚伸長様式を明らかにしたことで、多新翅類の単系統性をさらに強化、3)マイセトム(脂肪体内共生細菌の集合塊)はゴキブリ目のグラウンドプランである可能性を示唆、4) 胚運動様式については、同時に検討を進めているホラアナゴキブリ科のデータも含めることにより、上述の網翅類の系統学的理解の妥当性がさらに検証されたと同時に、系統学的議論における「胚運動型」の有効性も示唆された。以上研究内容を、国内外の学会で発表するとともに、成果の一部を学術雑誌に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度まで、ゴキブリ目2亜目のうち、オオゴキブリ亜目の最原始系統群と目されるムカシゴキブリ科の発生学的研究を主なテーマとして進めてきた。本年度は外部形態データの補完にあたり、各発生ステージの詳細な観察と記載はほぼ完了、以下発生学的特徴として、1)卵構造、2)胚形成様式と胚伸長様式、3)マイセトム、4)胚運動型を明らかにしてきた。これら当研究データと先行研究データを基に比較発生学的検討を行い、ゴキブリ目、網翅類、多新翅類のグラウンドプランおよび系統学的議論を行った。現在、これまでの成果を国際学術雑誌に公表するべく論文作成にあたっている。当グループの器官形成の観察と記載は未着手であるため、次年度取り組むべき課題として検討している。 同時進行で、ゴキブリ目で処遇が最もミステリアスとされているグループ、ホラアナゴキブリ科の検討を開始している。当グループについては、カルチャーも既に構築済みであり、研究基盤は整えられている。さらに、予備的研究として、胚運動型が「胚軸不変型」であることが明らかとなった。このことにより、胚運動型による網翅類の系統学的理解「網翅類=カマキリ目+(オオゴキブリ亜目+シロアリ目)」の妥当性についてさらに確かめられた。 一方、ゴキブリ亜目に関しては、その大部分を占めるゴキブリ科の最原始系統群候補とされる、ポリゾステリア亜科のEurycotisを検討対象として研究を計画したが、カルチャーの維持に困難を来した。このことから、当グループについては、飼育法の改良から取り組む必要がある。 以上総合的に判断し、「区分」の通りおおむね順調に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、「ゴキブリ目の2亜目体系」を作業仮説に検討を進める。 ムカシゴキブリ科については、外部形態データの補完が完了した。外部形態からの詳細な記載を公表すべく、論文作成と投稿の準備に当たる。同時に、胚葉形成や器官形成の把握のため、メタクリル系樹脂準薄・エポキシ系樹脂超薄切片を作成し、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡による組織学的観察を行い、検証を進める。 ゴキブリ目で処遇が最もミステリアスとされているグループ、化石系統群Miomopteraの「生きている化石」ホラアナゴキブリ科を主な検討対象に含め、すでに構築済みの当グループの累代飼育系を基に、発生学的研究を遂行する。得られた卵から、卵構造の観察、胚発生の概略、そして胚の外部形態観察を順次進める。 ゴキブリ亜目の大部分を占めるゴキブリ科の最原始系統群候補とされる、ポリゾステリア亜科については、上述の「現在までの進捗状況」にある通り、材料の確保と飼育法の確立などの研究基盤の整備から始める。採卵可能となった段階で、発生学的研究に順次着手する。 各群の発生学的データの蓄積が行われた時点で、本研究課題の総括を行う。ゴキブリ目のグラウンドプランを構築し、網翅類の他群の先行研究の知見や進行中の研究からのデータとの比較検討、さらにそこから、多新翅類他群の先行研究の知見との比較検討を行い、網翅類、多新翅類のグラウンドプラン、系統進化学的議論を展開する。そして、本研究課題の総括、成果の公表を目指し、論文の作成を行う。
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Research Products
(8 results)