2016 Fiscal Year Annual Research Report
ウェットプロセスによる実用固体表面への高耐久超撥油コーティングの創製
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15J00802
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中山 勝利 北海道大学, 総合化学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 自己組織化単分子膜 / 陽極酸化 / 撥水性 / 低表面張力液体 / 耐久性 / XPS / 超撥油表面 / 自己修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
超撥油性表面は機械的・化学的耐久性に乏しく、大規模応用のためにはその改善が必要である。本年度は、1)多孔質陽極酸化アルミナを利用し、損傷箇所が自己修復する超撥油表面を開発すること、2)従来撥水・撥油化に使用されている自己組織化単分子膜(SAM)と,アルミニウム表面の酸化皮膜と界面の状態を、SAMの耐久性と関連付けて理解することを目的とした。 1)陽極酸化でAl表面に形成したナノポアに撥水・撥油化剤を貯蔵した表面は、酸素プラズマ照射によって直ちに親水化するものの、大気中放置することで再び撥水化する。この修復挙動は複数回繰り返され、特に陽極酸化ナノポアを長くすることで、より多くの回数繰り返されることを見出した。また、自己修復は超撥油性表面にも応用可能であり,酸素プラズマ照射後であっても,大気中放置により低表面張力の油滴が再び緩やかな傾斜で転落する様子を確認した。また,プラズマ照射→大気中放置のプロセスを8回以上繰り返しても自己修復能の劣化は確認されなかった。 2)陽極酸化によりAl表面に酸化皮膜を形成すると、電解質アニオンが皮膜中に混入する。陽極酸化皮膜表面にSAMを形成した場合、このアニオンの存在により、SAM分子の安定性に影響を及ぼすと予想される。SAMにより皮膜表面は撥水化するが、撥水性は低表面張力液体中に長時間浸漬することで低下した。これはSAM分子の脱落によるものと考えられるが、陽極酸化に使用した電解液種によりSAMの安定性に違いが見出された。特に、リン酸電解液を使用した場合、撥水性の劣化は他の電解液種と比較し抑制された。X線光電子分光の結果から、おそらくSAM分子とリン酸アニオンとの間に比較的強固な相互作用が生成するものと考えている。 以上はSAMを利用して超撥油性表面を作製した場合の耐久性を考える上で重要な成果であり、当該分野のさらなる発展に寄与するものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は当初の目的であった再陥没アノード酸化皮膜による超撥油化が予想に反して困難であったことを受け、方針の変更を余儀なくされた。そこで前年度から補助的に取り組んでいた自己修復性超撥油表面の開発研究に移行した。前年度は超撥油性表面の自己修復性は確認できたものの、その繰り返し特性を十分に検討できなかったため、これを本年度の研究主題の一つに据えることを考えた。撥水・撥油化剤の貯蔵条件(濃度や浸漬時間など)の最適化は前年度にほぼ完了していたこともあり、比較的スムーズにこの主題に取り組むことができた。試行錯誤の結果超撥油表面に対し本手法による自己修復挙動が複数回繰り返されることが見出され、学会にて成果報告を行った。 また新しい学術的アプローチとして、撥水・撥油化分子とアルミナ皮膜表面との界面の化学状態を基礎的に理解する研究にも着手した。X線光電子分光法により表面の単分子膜の化学状態を正確に追跡するのは困難を極め、また研究の性質(液体中浸漬に伴う劣化挙動の観察)上、再現性の確認も含め結論付けるのに相当な時間を要した。そのような中でも、低加速走査型電子顕微鏡の導入などにより着実に研究が進み、こちらの成果についても学会発表するに至った。 しかしながら、自己修復に関しては機械的損傷をはじめとするプラズマ照射以外での劣化に対する修復能や、貯蔵する撥水・撥油化剤の種類が及ぼす影響などが未だ明らかにできていない。SAM/酸化皮膜界面状態に理解に関しても、低加速電子顕微鏡にて観察した像に未だ不可解な点があり、この究明が課題として残っている。また、ある程度目処がついた希土類酸化物による超撥水化の研究についても、様々な原因が重なって未だ学術論文投稿ができておらず準備中である。 以上から、研究は概ね順調に進展しているものの、急ぎ究明すべき課題が山積しているというのが現状の評価として妥当と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は博士課程最終学年ということもあり、これまでに取り組んできた研究で未だ理解が不十分と思われる課題の究明を主題に据える予定である。具体的には、超撥油化アルミニウム試料の機械的耐久性をはじめとする実用的評価をこれまで十分に行ってこなかったことから、屋外使用を想定し、一定量のガラスビーズなどを擬似的な屋外飛沫物に見立て、可能な限り定量的に耐久性の評価を行う。また、自己修復に関しては、特に超撥油性アルミニウムにおいて、ナノポアのみならずエッチピットにも撥水・撥油化剤が貯蔵されている可能性について検討し、自己修復繰り返し回数との関連について明らかにする。SAM/酸化皮膜界面の化学状態に関しては、SAM分子脱落後の表面を低加速電子顕微鏡で観察した際に局所的に脱落の跡が確認されており、この原因を究明する。最終的に学術雑誌に論文として投稿することを目標とする。 同時に、SLIPSと呼ばれる、あらゆる液滴が多孔質基板上に形成した潤滑油の層の表面を滑落していく新たな撥水・撥油コーティングに関する研究を進めていく予定である。特に、潤滑層の安定性を、基板の幾何学的形態と関連付けて評価する。報告者らはマイクロ/ナノ階層構造が最も潤滑層を安定に保持できると予想しているが、どの幾何学的ファクター(ナノポア多孔度、マイクロピットサイズなど)が潤滑層の安定性にどう影響するかについて明らかにする。加えて、潤滑層の種類の影響を検討し、粘度と転落角・転落速度や耐熱性など実用的な評価も行う。最終的には形態によって安定性に差が生じる理由を究明し、特許出願・学術雑誌への投稿を目指す。また,潤滑層として多くの場合フルオロアルキルポリマーが使用されているが、これは国によっては環境規制の対象となっている物質であるため、フッ素フリーのSLIPSの開発についても検討を進める。
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Research Products
(2 results)