2015 Fiscal Year Annual Research Report
200%の外部量子効率を示す有機太陽電池の作製に向けた一重項分裂性材料群の創出
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15J00861
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
河田 総 山形大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 一重項分裂 / チエノキノイド / 有機太陽電池 / 三重項励起子 |
Outline of Annual Research Achievements |
一重項分裂(SF)とは、一つの一重項から二つの三重項を生成する過程であり、有機薄膜太陽電池(OPV)の効率向上に向けて注目されている。SFを発現するためには三重項エネルギーの2倍以上の一重項エネルギーを持つ(E(S1) > 2×E(T1))必要があるが、一般的な有機材料においてこのエネルギー準位を持つことは困難であるため、これまでOPVに応用可能なSF性材料はペンタセンなどのアセン類に限られていた。 本年度は、二重結合の末端にフルオレンを有するチエノキノイド化合物を中心に研究を進めた。チエノキノイド化合物は基底状態でキノイド-ビラジカル共鳴構造が存在するため、ビラジカル性の寄与によるE(T1)の抑制を期待した。また、二重結合末端には電荷移動度と安定性の向上、電子ドナー的性質の付与などを目的にフルオレンを採用した。 合成したチエノキノイド化合物をドナー材料として使用し、アクセプター材料としてフラーレンC60とペリレンジイミド誘導体PDIF-CN2を使用して蒸着法にてOPVを作製した。OPV中でのSFの発現は、光電流磁場依存性測定を用いて判定した。PDIF-CN2との素子では、印加磁場の増加に伴う光電流の低下が観測された。これはゼーマン分裂によるSF速度の低下を示しており、これらの化合物におけるSFの発現を証明している。一方、C60との素子では、印加磁場の増加に伴う光電流の増加が観測された。C60との間で形成される電荷遷移状態のエネルギー(E(CT))よりも合成材料のE(T1)が低いため、SFが励起子失活過程として働いているためと考えられる。以上のように光電流の磁場挙動およびアクセプター材料のLUMO準位依存性から、これら3種のチエノキノイド化合物のSF特性が証明された。アセン類ではない非縮合多環系の骨格を有する材料を用いたOPVデバイス中でのSFの発現を実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、チエノキノイド化合物を用いた素子の光電流の磁場挙動から一重項分裂の発現を証明した。非アセン類の分子における一重項分裂の観測という今年度の目標を達成しており、研究は順調に進行していると考える。この成果は国際学会、学術論文などで筆頭著者として発表している。 さらに、それらのチエノキノイド化合物について化学修飾によるエネルギー準位の推移を系統的に調査し、三重項励起エネルギーとカチオン形成エネルギーの個別制御を実証した。分子設計指針を提示するとともにエネルギー準位の任意かつ詳細なチューニングによる素子効率へのフィードバックも期待される。 他方、一重項分裂性材料の創出だけでなく、材料や素子の一重項分裂特性の評価法を確立できたことも大きな成果と考える。単結晶X線構造解析、量子化学計算、光電流磁場依存性測定などの要素技術は今後の分子設計、材料評価に対して明確な指標となることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
現段階での最大変換効率は1%程度と低い値に留まっている。本年度得られた知見を活かし、来年度でのさらなる発展が求められる。変換効率の向上に向けた指針として(1)高い三重項エネルギーを有する一重項分裂材料の創出と(2)量子ドットアクセプターへの展開が考えられる。 チエノキノイド化合物を用いた素子においては、三重項エネルギーよりも電荷遷移状態のエネルギーが大きいため、三重項励起子が電荷分離できず低効率化していると考えられる。また、低すぎる三重項エネルギーが素子の解放端電圧を低下させ、高効率化の妨げになっていると考えられる。素子の高効率化に向けて三重項エネルギーの向上は必須条件と言える。 また、有機薄膜太陽電池においては、電荷移動度と成膜性に優れるフラーレン誘導体がアクセプター材料として標準的に使用されるが、逆にフラーレンのエネルギー準位(E(T1) = 1.3 eV, LUMO = 4.0 eV)に適したドナー材料でなければ高効率化は見込まれない。近年、一重項分裂性材料層を量子ドット太陽電池などの既存の太陽電池デバイスへ電流増幅ユニットとして組み込む報告がなされている。量子ドットは成形サイズによってバンドギャップを調節できる利点があり、三重項励起子の電荷分離と効率的な電荷輸送の両立が期待される。
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Research Products
(1 results)