2016 Fiscal Year Annual Research Report
小津安二郎映画における特異な空間設計および編集様式と人間精神表象の連関性研究
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15J00947
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 弘了 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 映画学 / 映画研究 / 小津安二郎 / 表象 / 表象文化論 / 日本映画 / フィルム・スタディーズ / シネマ・スタディーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
国内の学会で三件の研究発表を行い、国外の学会で一件の研究発表を行った(いずれも口頭発表)。日本映像学会第の42回全国大会(2016年5月、日本映画大学)では採用一年目に鎌倉文学館で実施した「ネガ・シート」を含む小津映画の大規模な資料リサーチの成果を発表した。日本映画学会の第5回例会(2016年6月、慶應義塾大学)では、これらの資料に基づき、『早春』(1956年)に的を絞って、さらに議論を発展させた。日本映画学会の第12回全国大会(2016年11月、大阪大学)では、前述の聞き取り調査等の成果も踏まえ、映画以外の芸術ジャンルを参照しながら小津映画を多角的に捉える試みを行った。また、EAJS (European Association for Japanese Studies) のThe 2nd EAJS Conference in Japan(2016年9月、神戸大学)では、小津がヴィム・ヴェンダースやアッバス・キアロスタミといった世界的な評価を受けている映画監督に与えた影響を、東京表象の観点から、主として首都高速と東海道新幹線の用いられ方の分析を通して明らかにした。 『人間・環境学』に学術論文を投稿し、厳正な査読を経て掲載された。これは一昨年の日本映画学会大会(2015年12月)での口頭発表を発展させたものである。「入浴」という主題を設定することで、是枝裕和の作家像を明らかにすることを試みた。入浴に関しては小津安二郎の『父ありき』(1942年)にも有名な入浴場面があり、映画史の中で小津を捉えるにあたって重要な視座を与えてくれるものと考えている。 また、聞き取り調査に関しては、小津映画に携わっていた人物の当時を知る井手恵治氏から話を伺い、その成果をインタヴュー記事として査読制電子学術ジャーナルCineMagaziNet!に掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね期待通りの研究成果をあげている。具体的には、所属大学院の紀要論文集(査読付)『人間・環境学』に論文を一本、査読制電子学術ジャーナルCineMagaziNet!にインタヴュー記事を一本掲載し、国内で学会発表を三件、国外での発表を一件行っている。紀要論文では是枝裕和の映画作品を中心に論じているが、是枝は小津から多大な影響を受けている作家であり、研究課題を遂行するにあたって重要な成果の一つと位置づけられる(「是枝映画における入浴の機能――『DISTANCE』(2001年)における入浴場面の欠如とその意味」)。インタヴュー記事では関係者から聴き取った内容を的確に構成し直して、他の研究者にとっても有益な、学術的に意義のある内容に仕上げたと自負している(「小津映画と「美術工芸品考撰」――井手恵治氏インタヴュー」)。また、計四回の学会発表は採用二年目としては十分な活動量だろうと考えている(「小津安二郎研究における「ネガ・シート」の活用可能性について―――『お茶漬の味』『東京物語』『早春』『お早よう』を中心に」「ネガ・シートからたどる小津安二郎『早春』の生成過程」「小津映画における「美術工芸品考撰」の役割――映画の第八芸術化をめぐる戦い」“The Expressway and the Shinkansen: Images of Tokyo in the Films of Ozu, Wenders, and Kiarostami”)。一年目に蓄積した研究成果を、適切にアウトプットへとつなげられた格好である。ただし、博士論文の完成に向けては、やはり査読論文の数の点で見劣りするのは否めない。二年目で行った学会発表の成果を着実に学術論文の形にまとめあげることが三年目の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、表象文化論学会第12回大会(7月)、日本映画学会第13回全国大会(12月)での口頭発表を予定している。 論文については、所属大学院の紀要論文集『人間・環境学』に学術論文を投稿し、現在査読審査中である。この論文では、是枝裕和の近作『海街diary』(2015年)が、いかに小津の影響を映画的に発展させているかについて論じている。また、日本映像学会の学会誌『映像学』に、論文を投稿した(こちらも現在、査読審査中である)。さらに、現在は日本映画学会の学会誌『映画研究』および、表象文化論学会の学会誌『表象』への投稿論文を準備している。 これらの投稿論文を核とし、博士論文を仕上げていくことになる。博士論文では、小津安二郎映画の受容に軸を置いて分析することで、その豊かなテクストが複数の水準の観客を内在していたことを浮かび上がらせる。映画学には「理想的な観客」と呼ばれるフィクショナルな観客概念が存在する。これは映画内のあらゆる事柄を熟知した上で、その内容を味わい尽くすことのできる観客を指す。しかし、実際にはそのような観客はまず存在しえない。表象されている事柄について、あるいは同時代の歴史的文脈に関して、すべてを把握したうえで映画を隅々まで鑑賞することはできない。個々の観客においては必ずある種の偏りが生じる。その偏りをいくつかのカテゴリーに分類し、小津映画を多角的に捉える視座を提供したい。そのような複数の視点の総合は必ずしも「理想的な観客」に合致しない。むしろそこから逸脱する豊かさを見せるのではないかと考えている。
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Research Products
(8 results)