2015 Fiscal Year Annual Research Report
新規な非対称型二核遷移金属酸素錯体の創成と不活性基質の効率的酸化反応触媒系の開発
Project/Area Number |
15J00957
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
阿部 司 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 銅ー活性酸素錯体 / 酸化還元電位 / 酸素化反応 / 選択性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は配位子のピリジルアルキル側鎖が生成する銅-活性酸素錯体の化学的性質に及ぼす効果について明らかにするために、ピリジルメチル側鎖とピリジルメチル側鎖を有する窒素系三座配位子(LPymおよびLPye)を用いて調製した銅(I)錯体と分子状酸素の反応性を比較検討した。それぞれの銅(I)錯体と分子状酸素との反応では、単核銅(II)エンドオン型スーパーオキソ錯体が生成することが分かった。しかし、LPymを用いて生成したスーパーオキソ錯体はさらにもう1分子の銅(I)錯体と反応し、二核銅(II)エンドオン型パーオキソ錯体を与えることが分かった。銅(I)錯体[CuILPym]+は[CuILPye]+に比べて0.23 V高い還元力を有しており、[CuILPym]+は[CuILPye]+より容易に酸化されやすい。生成する単核銅(II)スーパーオキソ錯体の還元電位がLPymとLPyeで同じような値をとるのであれば、 [CuILPym]+は酸化されやすいため反応したと考えられる。反応性の異なった銅-活性酸素錯体を銅(I)錯体の酸化還元電位で制御できることを見出した。 また分子状酸素を酸化剤とする飽和炭化水素の酸素化反応は、副生成物に安全な水しか排出しないことから注目を集めている。そこで、銅触媒を用いた分子状酸素を酸化剤とする脂肪族炭素-水素結合の酸素化反応についても検討を行った。基質には、農薬や医薬品の重要な合成中間体であるピリジン環を有する化合物を用いた。酸素雰囲気下DMF中塩化銅二水和物を加えて4-ピコリンを100度、22時間加熱すると4-ピリジンカルバルデヒドが収率75%、選択性99%以上で得られることが分かった。本触媒系では、アルデヒドの過剰酸化体であるイソニコチン酸は生成しない。温和な条件下で分子状酸素を酸化剤とした選択的なアルカンの酸素化反応を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定のような非対称の二核錯体ではないものではないが、二核銅-酸素錯体を錯体の構造を配位子の剛直性を用いて制御することによって作り分けることができることを見出した。加えて銅(I)錯体の酸化還元電位によっても制御できることを見出した。これは今後、非対称な錯体を作る際にも大きな知見になると考えられる。これまでの研究で銅(I)錯体の酸化還元電位と生成する銅-活性酸素錯体の相関関係が明らかになってきている。これらの情報をもとに非対称な配位子設計を行えば目的の銅-酸素錯体も得られると考えられる。 また、市販の銅塩を用いて、飽和炭化水素の選択的酸素化反応を当初の予定よりも早く実現することができた。反応条件を細かく検討することによって円滑に反応が進行する条件を見つけることができた。加えて、基質汎用性やメカニズムに関する考察も行い、今後錯体を触媒として酸化反応を行う際にも重要な情報を得ることができたと考えられる。 当初の計画では銅-酸素錯体の合成とキャラクタリゼーションであったが、これまでに触媒反応へ展開することができたため計画以上に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
錯体の構造によって銅中心の電子状態や生成する銅-活性酸素錯体を作り分けることが分かったので、今後はこれまで得られた情報をもとに二つの金属中心が異なった電子状態を有する配位子設計を行い、非対称な二核錯体の合成とそのキャラクタリゼーションを行う。また、それぞれの金属中心だけでなく、2つの金属間の距離を系統的に変化させることによって生成する酸素錯体の化学的性質や反応性にどのような影響を及ぼすかについても検討する。キャラクタリゼーションについては紫外・可視吸収スペクトル、共鳴ラマンスペクトルを用いて行い、各金属中心の電子状態はサイクリックボルタンメトリーを用いて行う予定である。また生成する二核遷移金属活性酸素錯体の単結晶が得られた場合にはX線結晶構造解析を用いて構造決定を行う。その他、生成した酸素錯体と外部基質との反応性についても検討を行い、反応メカニズムや2つの金属中心の電子状態と反応性についての相関について考察を行う。 そして反応性が高かったものについては、錯体触媒として触媒反応への応用を行う。触媒反応の条件検討はこれまでの研究で行われてきた手法を参考にして行う。これまでの銅塩を触媒として行った触媒反応の研究では、適応基質がメチルピリジンとその誘導体に限られていた。そのため、非対称な二核遷移金属錯体を用いて他の複素環や芳香環を有する化合物に加えてメタン等のさらに不活性な飽和炭化水素といった酸化できる基質の拡張を目指す。
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Research Products
(5 results)