2016 Fiscal Year Annual Research Report
統一的方法に基づく慣性と運動学的相互作用を考慮した構造物‐杭系の地震応答評価法
Project/Area Number |
15J00960
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小島 紘太郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 極限地震応答 / 弾塑性応答 / 断層近傍地震動 / ダブルインパルス / 熊本地震 / 繰り返し地震動 / 必要強度割増係数 / 倒壊限界 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度における主たる研究成果は以下の2点にまとめられる。 1 前年度の研究では、断層近傍地震動の断層面平行方向の入力の特徴を良く表現した1サイクル正弦波に対して、フーリエ振幅の形状が類似で最大値が等価なダブルインパルスを導入し、完全弾塑性復元力特性を有する1自由度系の「極限的ダブルインパルス」とそのような入力に対する弾塑性応答の閉形表現を導出した。本年度では、完全弾塑性1自由度系に対する極限ダブルインパルスの理論をノーマルバイリニア型復元力特性を有する1自由度系に拡張し、それに対する極限的ダブルインパルスとその入力に対する最大変位の閉形表現を導出した。バイリニア型復元力特性は、多くの構造種別の基本モデルであり、主構造と制振ダンパー並列モデルで表される制振構造にも適用可能となり、適用範囲が格段に広がる。 2 2016年4月14日と16日の熊本地震では、熊本県益城町等で震度6強-7の大きな揺れが複数回生じ、多くの建物が倒壊した。現在の建築基準法では、震度6強を超える地震動は建物の供用期間中に最大でも1度発生することしか想定されていないため、今回の事象は想定外といえる。本年度の研究では、地震動のインパルスへの置換とエネルギーの観点から、震度7の地震動が短期間に発生する場合に現行の耐震基準に対してどの程度強度割増が必要となるかの検討を行った。本研究では、1回の震度7レベル地震動と2回の連続する震度7レベル地震動をそれぞれ1、2回のシングルインパルスで表現し、エネルギーの観点から、1、2回のシングルインパルスで丁度倒壊するときの建物強度を導出した。それらの比から現行の耐震基準に対する必要強度割増係数を導出し、同入力レベル地震動が2回入力することを想定した場合では、現行の耐震基準の1.5-2.0倍に強度を割り増す必要があることを明らかにした。これは住宅性能表示基準の耐震等級3と同等である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究では、前年度の研究推進方策で記述したように、「完全弾塑性1自由度系の極限的ダブルインパルス」に関する研究をバイリニア型復元力特性を有する1自由度系に拡張した。本手法の特徴は、建物の弾塑性応答の最大値を極大にするような「極限的ダブルインパルス」に注目している点である。これにより、従来の等価線形化法や時刻歴応答解析を用いた方法では必要となる「多くの入力振動数に対する繰り返し計算」が不要である。さらに、バイリニア型復元力特性は、多くの構造種別の基本モデルであり、完全弾塑性復元力特性と比較して適用範囲が格段に広がる。この点で研究は当初の計画以上に進展していると言える。本研究成果をまとめて、査読付き論文集である「日本建築学会構造系論文集」に発表した。 本年度は、2016年4月14日と16日の熊本地震を受けて、「複数回の震度7レベル地震動が発生した場合に必要な強度割増係数」に関する研究を行った。今回の熊本地震における複数回の震度6-7の地震動は、現行の耐震基準では想定外の事象であった。このような「連続する2回の震度7レベル地震動」を想定したときの現行の基準に対して必要な強度割増係数を導出した。本提案手法により、2回の震度7レベル地震動を想定した場合では、現行の耐震基準の1.5-2.0倍の強度割増が必要であることを明らかにした。このような短時間に複数回の大振幅地震動が発生するときの必要強度を陽に見出す研究は今まで存在せず、本研究成果をまとめた論文を査読付き国際専門誌'Frontiers in Built Environment'に発表した。 本年度では、「完全弾塑性1自由度系の極限的ダブルインパルスに関する研究」や「2回の震度7レベル地震動が発生した場合に必要な強度割増係数」を日本建築学会近畿支部研究発表会、日本建築学会大会、日本地震工学大会で発表した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度と平成28年度の研究では、「弾塑性構造物の極限的ダブルインパルス・トリプルインパルス・マルチインパルス」に関する理論の展開において当初の計画以上に研究が進展した。また、現行の建築基準法では想定外とされていた「短期間に連続する2回の大振幅地震動」が発生した場合に、現行の耐震基準に対して必要な強度割増係数を導出した。しかし、これまでの研究では減衰挙動の複雑さのため、非減衰系を対象としており、粘性ダンパーを付加した制振構造や免震構造等の付加的に減衰を有するモデルの拡張が困難である。そこで平成29年度の研究では、非減衰弾塑性1自由度系に対して展開してきた「極限的ダブルインパルス」に関する理論を、粘性減衰を有する弾塑性構造物に拡張する。 また、これまでの2年間の研究と平成29年度の研究から得られた知見を整理し、地震動のインパルス列への置換とエネルギーの平衡則に基づく「弾塑性構造物の極限外乱理論」を提示する。その成果を博士論文にまとめ、国際専門誌や日本建築学会論文集に投稿すると共に、海外での国際会議に参加して口頭発表を行う。 さらに、平成29年度の後期では海外研修を計画しており、建物-杭-地盤系や地盤振動に関する知見を得ることを目的としている。
|
Research Products
(7 results)