2015 Fiscal Year Annual Research Report
琵琶湖深水層で優占する細菌系統CL500-11の生態解明
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15J00971
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡嵜 友輔 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 微生物生態学 / 陸水生態学 / 琵琶湖 / 大型淡水湖沼 / 難培養細菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
CL500-11系統をはじめとする、大型淡水湖沼の有酸素深水層で優占する細菌の生態解明に向け、初年度である今年度は、網羅的な調査を通じ、深水層に出現する主要な系統を特定することを目標とした。具体的には以下の①および②を実施した。 ①琵琶湖における時空間網羅的な細菌群集組成の調査 琵琶湖沖定点において時空間的(3水深×15か月)に採集されたサンプルを用いて、16S rRNA遺伝子をターゲットにした細菌群集組成の解析を行った。その結果、従来研究において淡水の表水層で優占するとされてきた系統とは門レベルで異なる、新規性の高い系統が深水層において多数見つかった。本研究は、有酸素深水層に生息する細菌群集をターゲットに時空間的網羅的に分析した初の調査であり、大型湖沼における今後の生態学的研究に基礎的な知見を与えるものである。本研究の成果は、国内外の学会で発表し、国際学術誌に投稿済み(現在査読中)である。 ②有酸素深水層を有する日本各地の湖の比較調査 琵琶湖で見つかった深水層特異的な系統(研究①)は、琵琶湖以外の湖沼にも広く分布する重要系統であるという仮説のもと、2015年の夏~秋にかけ、有酸素深水層を有する国内10湖の湖心にて鉛直的に採水を行い、16SrRNA遺伝子をターゲットにした細菌群集組成の解析を行った。その結果、琵琶湖で特定された深水層特異的系統は、他の複数の湖沼の深水層でも高い現存量を示し、淡水湖沼の有酸素深水層に広く生息することが明らかとなった。さらに各系統とも、全ての湖に同様に分布する訳ではなく、それぞれ現存量が高い湖と低い湖の違いが見られた。このことから、それぞれの細菌系統は、異なる生理的な機能、異なるニッチ(生態学的地位)を有する系統であると考えられる。次年度以降はそれぞれの主要系統の生理的活性や生態系内での機能を明らかにしていくことが課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の研究計画通り、有酸素深水層を有する全国の淡水湖沼にて調査を行ったが、各調査地へのアクセスを有する外部研究者と積極的にコミュニケーションをとることで、当初の想定を超える10の湖沼での調査を実現した。その結果、複数湖沼の深水層でCL500-11系統の細菌が優占することを確認し、計画当初より立てていた仮説の立証に成功した。さらに全国調査と並行し、過去に琵琶湖において採取したDNAサンプルを用いて、次世代シーケンサーによる細菌群集組成の解析を行い、深水層特異的に生息するCL500-11以外の細菌系統の特定にも成功した。この成果は、当初の研究計画には無いものであるが、本成果の成果は、国内外の複数の学会で発表(うち2件は受賞)され、すでに論文も投稿済みである。さらに次の研究目標である湖沼深水層に生息する主要細菌系統のゲノム解読やウイルス感染動態の解明に向け、すでに予備実験を開始し、次年度中には本実験を開始できる見込みである。以上の成果より、今年度の研究は当初の計画を超える進展があったと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究では湖沼の深水層において広く優占する細菌の基礎的な知見を得ることができた。次年度以降は、CL500-11系統をはじめとする、主要な系統に焦点を絞り、その生理・生態を明らかにする研究を進めていく予定である。具体的には、各系統のゲノムの決定と、感染するウイルスの存在の有無の2点を明らかにしていく予定である。ゲノムの決定においては、FISH染色とセルソーターを組み合わせて目的細胞のみを収集し、全ゲノム増幅をかけた後にシーケンスする方法と、湖水中の全DNAを抽出し、メタゲノムシーケンスを行ったうえで主要系統のゲノムをアッセンブルする方法の双方を検討予定である。ゲノム配列を決定し、各系統がどのような代謝経路の遺伝子を持っているのかを明らかにすることで、これら主要系統の生態系・物質循環における役割を解明することが可能となる。さらに、複数の湖沼で出現する同一系統(16S rRNA遺伝子で>97%の相同性)のゲノム配列を湖沼間で比較することで、「なぜ同じ系統が、複数の湖沼の深水層に共通して生息しているのか?どのように分散適応してきたのか?」という地理系統的な背景も明らかにしていく予定である。ウイルスの存在の有無については、湖水中の浮遊画分のウイルスを濃縮したうえで、メタゲノムシーケンス、アッセンブルを行い、深水層で優占するウイルス系統の特定、およびその配列の分析により、CL500-11系統をはじめとする深水層特異的な系統に感染するものが存在するかどうかを検討する。これらの研究によって、湖沼の有酸素深水層の微生物生態系・物質循環系の解明を目指すとともに、難培養微生物の生態学や、微生物間相互作用の研究に一般的に応用できるような知見がもたらされることも期待している。
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Research Products
(4 results)