2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J00989
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
塗師本 彩 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 景気 / 失業 / 健康 / 死亡 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、日本における失業と健康の関係を長期間の県別パネルデータを用いて明らかにした。データは『国勢調査』および『人口動態調査』より、景気の指標として失業率、健康の指標として死亡率を用いている。これらの変数は性別・年齢階級別に作成し、本研究では特に労働市場との関連が強いと考えられるグループ(男性、25-54歳)への影響に注目した。分析手法は主にパネル分析を用いている。加えて、データが1975―2010年という比較的長期間を含んでいるため、時系列の問題に注意をはらっている。また、死因別の分析や労働市場との関連が弱いと考えられる24歳以下・55歳以上・女性への影響も確認している。その結果、日本においては、特に労働市場と関連するグループに対して、失業率が上昇すると死亡率が高まる、つまり、労働市場の景気悪化は労働市場とより近い人々の健康状態に悪影響を及ぼすことが示された。この結果はモデルの定式化を変えても頑健である。 この研究の意義・特徴は主に3点あげられる。まず、日本における失業と健康の関係を明らかにした点である。失業と健康の関係については数多くの研究が欧米で蓄積されているが、一貫した結果は示されていない。本研究は、高度経済成長期を経験したことや皆保険制度を有するという点で特殊な背景をもつ日本のデータを用いて新たな研究成果を示すとともに、日本における本テーマの研究蓄積の不足を補っている。次に、長期間のデータを用いたパネル分析を行う上で、先行研究ではあまり取り組まれていなかった時系列の問題に関心を向けて結果の頑健性を確認した点があげられる。最後に、県別のデータを用いて失業と健康の関係を分析した点である。個票データを用いて健康や失業を測る場合、データの制約やサンプルに偏りが生じるなどの問題が大きくなるが、本研究では県別のデータを用いており、そうした問題は小さいと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、主に「失業率の上昇が健康に与える短期的影響」を明らかにすることを計画していた。この研究は、2015年5月に日本経済学会春季大会でポスター報告、2016年3月に若手研究者のための研究報告会で口頭報告(英語)を行い、それぞれにおいて非常に有益なコメントを数多く頂いた。それらのコメントを参考に追加的な分析や考察などを行った。現時点ではこれらの分析・考察を1本の学術論文としてまとめており、投稿準備段階にある。また、次の研究についても準備を始めており、研究の進捗は概ね計画通りといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
県別データを用いた現時点までの研究では、日本において失業率の上昇は健康状態を悪化させることが明らかとなった。しかし、なぜ日本において失業率の上昇は健康状態を悪化させるのかについて、現時点までの研究ではいくつかの可能性を列挙しているにすぎず、分析は行えていない。そこで今後の研究では、主に個票データを用いて、なぜ日本において失業率の上昇は健康状態を悪化させるのかを明らかにしたいと考えている。現時点までの研究結果からは、特に労働市場と関連の強いグループに対して、失業率の上昇が健康を悪化させる影響がみられたため、労働に関連するメカニズムの可能性を分析したい。具体的には、職業トレーニングや労働時間が健康状態へ与える影響を分析することが考えられる。今後はこうした研究を通して、当初の目的である「日本における若年の失業と健康の関係」を明らかにしていきたいと考えている。
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Research Products
(2 results)