2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J00989
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
塗師本 彩 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 失業 / 景気 / 健康 / 若年雇用対策 / 政策評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず一つ目の研究として、失業率の変動が死亡率に与える影響を分析した。これは昨年度に引き続く研究であるが、今年度は1つの国際学会で口頭報告を行い、頂いたコメントを参考に更なる分析を行うなどして改訂を重ねた。例えば時間の効果の扱いについて、これまで線形トレンドのみ用いていたが、地域固有のトレンドを含めた分析も行い結果の頑健性を確認した。現在は国際雑誌への投稿準備段階にある。また、これまでは全死因を含む死亡率に注目していたが、その中で自殺に注目した分析を行った。その結果、失業率の上昇は自殺率を高めること、特に無業者の自殺率を高め、就業者の自殺率には影響を及ぼさないことが明らかとなった。 次に二つ目の研究として、就職支援プログラムに参加することは若年失業者の健康状態を向上させるのかを明らかにした。就職支援プログラムとして注目したのは、大阪わかものハローワークで行われている「就活クラブ」である。データは、同ハローワークにおいて行った独自調査の結果を用いている。この独自調査は、「就活クラブ」参加者だけでなく同時期に同じ場所で就職活動をしていた「就活クラブ」非参加者も対象としているため、「就活クラブ」参加の効果を抽出できる。分析では、「就活クラブ」への参加は個人の選択によるため、主に傾向スコアを用いた推定を行った。推定の結果、「就活クラブ」に参加することは若年失業者の健康状態を改善させることが示された。特に、ストレスや憂うつさ、孤独感が減少する。追加的な分析では、自分と同じ属性を持った者が多いグループになった方が、健康改善効果が大きいことも示唆された。さらに、「就活クラブ」終了後の追跡調査を用いた追加的な分析では、「就活クラブ」を通じた健康状態の改善は、失業期間の短期化すなわち早期就職につながることが示された。この研究は一本の論文としてまとめ国内雑誌へ投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一つ目の研究に関しては、昨年度に引き続く研究であるが、今年度は国際学会であるEAEA2016で口頭報告を行った。頂いたコメントをもとに昨年度のものから更なる修正を加えて、現在は国際雑誌への投稿準備段階にある。二つ目の研究に関しては、医療経済学会第11回研究大会で口頭報告を行い、有益なコメントを頂いた。その他、大阪大学におけるセミナーでの報告などでも貴重なコメントをいただいた。それらのコメントを参考に、追加的な分析や確認を行い、一本の論文にまとめ、現在は投稿準備段階にある。今後の研究に関しては、個票データの申請が受理され、分析を行うためのデータセットを作成する段階にある。よって、本研究課題の進捗状況はおおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
一つ目の研究では、都道府県別データを用いているが、現在までの分析では誤差項における都道府県間の相関の可能性を考慮できていない。そこで、今後は空間計量経済学の手法を用いて地域間の相関を考慮した分析を行う。また、新たに個票データを用いて、景気変動や個人の失業経験が健康状態に及ぼす影響とそのメカニズムを分析する。具体的には、慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターの「日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)」用いて、景気変動や個人の失業経験が個人の健康に及ぼす影響を分析する。失業経験に関しては失業の理由を把握できるため、解雇といった外生的と考えられる理由でおこる失業に注目する。その他、失業経験が個人の健康行動などに及ぼす影響も分析する。
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Research Products
(3 results)