2016 Fiscal Year Annual Research Report
近世フランス人文主義者の国語意識─学術語と俗語の間、ペトルス・ラムスとその周辺─
Project/Area Number |
15J01027
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
久保田 静香 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 16・17世紀フランス / ペトルス・ラムス / モンテーニュ / 人文主義 / 国語意識 / 国語意識 / 文献学 / 雄弁 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究実施計画においては、(1)16世紀フランスにおける国語意識とフランス人意識―ラムスとモンテーニュの場合、(2)ラムス主義とキケロ主義、の二つの課題に取り組むことを目指した。 (1)についてはまず第52回ラブレー・モンテーニュ・フォーラムの招待講演において、ラムス研究の動向とラムス思想の要点を紹介する折、ラブレーやモンテーニュとの関連についても併せて触れる機会を得た。この講演を足がかりとし、『エセー』におけるモンテーニュ独自のフランス語観とフランス人意識についての言及箇所とラムス思想との比較を試みた研究の成果をまとめ、第2回フランス近世の〈地脈〉研究会にて口頭発表した。この発表をさらに深化・発展させ、2016年度ロンサール学会では、モンテーニュが『エセー』中で引用を行なったとされるラムスの『古代ガリア人の慣習』(1559)の該当箇所に注目し、文献学的アプローチをつうじて、モンテーニュとラムスのテクストを照合した結果を報告した。この研究にさらなる裏づけを与えるために16世紀刊行のカエサル『覚書』の諸版にあたる必要に迫られ、9月と3月のフランス出張を行ない、可能なかぎり多くの一次文献を閲覧・収集して、各テクストの異同を精査した。本課題に関連する雑誌論文としては、ラムスとボダンにおける16世紀フランス起源神話と雄弁の表象めぐる雑誌論文を1件刊行、ラムスを主題とした最新の研究書の紹介論文を1件執筆、受理された。 (2)に関しては、ラムス著『キケロ主義者』(1557)の閲覧、および二次文献の収集を国内外で継続的に行なった。 それ以外には、デカルトとイエズス会学校レトリック教育(とくにプロギュムナスマタと呼ばれる少年向け作文練習)についての雑誌論文を発表。本論文の執筆に際して必要となった一次文献閲覧のため、11月末に1週間のパリ出張を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度における当初の最大の目標は、ラムス研究の意義をより多くの人びとに知ってもらうため、ラブレーやモンテーニュといった同時代の大作家との関連に焦点を当てること、であった。この点においては、3回の口頭発表と1件の日本語論文(「教えることと考えることの狭間で―M.-D. Couzinet, Pierre Ramus et la critique du pedantisme(2015)を読む」『ロンサール研究』第30号、平成29年度中に刊行予定)の執筆をつうじ、ほぼ予定どおりの内容の実現がかなった。加えて、昨年度中に執筆・受理されていた論文「16世紀フランスにおける起源神話と雄弁の表象―ラムスとボダンを中心に」が『ロンサール研究』第29号誌上に掲載・刊行の運びとなった。 「キケロ主義」の主題については、現時点では口頭発表や論文のかたちで公表するには至っていないが、必要な一次資料や二次文献の主要なものはほぼ収集し終わっており、問題の大枠と要点は把握できた。 また、『明學佛文論叢』第50号に発表した「デカルトとプロギュムナスマタの伝統―イエズス会のレトリック教育を経由して―」と題する論文では、昨年度に行なった口頭発表の段階では気づかずにいた問題についての考察や、フランス国立図書館での新たな資料調査の成果も盛り込めたため、内容面でのさらなる充実をはかることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度における研究は、まずは6月3日(土)に開催の日本フランス語フランス文学会春季大会(東京大学)における口頭発表の内容を充実したものに結実させることである。「ラムスとモンテーニュ―カエサル『ガリア戦記』の引用から出発して」との題目ですでに正式な申し込みをすませており、学会誌『フランス語フランス文学研究』への掲載を目指す。 そのうえで、本研究課題の柱のひとつである「16世紀フランスにおける国民感情と宗教意識」にかんする考察の深化をはかる。とりわけ、これまでの研究の進展の過程で国内外の研究者たちとの対話をつうじて助言を仰いだところ、ほぼ異口同音に「近代的国民国家成立以前におけるnation概念の明確化」の必要性を説かれた。政治と宗教が混然一体の時代を生きる人びとの「国語意識」をいっそう鮮明に描きだすためにも、避けてはとおれない問題である。関連資料の収集は折に触れて行なっており、平成29年度中に各種研究会などで口頭発表の機会があれば積極的に応じながら、論文執筆の道筋をつけたい。
|
Research Products
(6 results)