2015 Fiscal Year Annual Research Report
〈身体〉を基礎とした手話研究構築の試み:現代フィジーの障害児学校を事例に
Project/Area Number |
15J01064
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 文哉 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | オセアニア / フィジー / ろう者 / 手話 / 障害者 / 身体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は、7月から12月にかけてフィジーに調査渡航し、首都スバにあるろう学校を主なフィールドとして現地調査を行なった。調査地を、当初の予定であったフィジー・ビチレブ島西部の障害児学校から首都スバのろう学校に変更したことによって、両校の生徒やスタッフをとりまく状況および手話相互行為について比較分析することができた。その結果、フィジー・ビチレブ島西部にある障害児学校では手話を介して「ろう者」に限定されない社会関係が形成されていると同時に、手話が、「できない状況≒障害(Disability)」を形成するセッティングを抜けだす一つの手段となっている一方、首都スバにあるろう学校やその周囲では、「ろう者のコミュニティ」と呼べるものが形成されており、そこでは手話や聴覚障害という特徴を介して「フィジー」という国家の枠組みに縛られない社会関係が成立していることが明らかになった。この研究成果について、日本文化人類学会で口頭発表を行ない、また日本オセアニア学会が発行する『Newsletter』に研究論文を投稿した。 フィールドワークではそのほかにフィジーろう者協会(Fiji Association of the Deaf)に赴き、同協会が主催するさまざまなイベントに参加すると同時に、同協会に所属するろう者にインタビューを実施した。インタビューでは、それぞれのろう者のライフヒストリーを聞き取り、その過程で、フィジーにおいて独自の手話やろう者のコミュニティが成立してきた歴史的経緯について、その輪郭を明らかにした。 またフィジーろう者協会のイベントを通して知り合った成人ろう者に、手話会話にかんする映像課題を実施し、その様子をビデオ収録した。日本に帰国後、ジェスチャー研究の分野で提唱された「キャッチメント」という分析概念を用いて収録した映像を分析して、その成果を身振り研究会で口頭発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2015年度は、フィジーにおけるろう者や手話をとりまく社会文化的な状況について重点的に調査し、研究発表を行なった。こうしたフィジーのろう者や手話にかんする民族誌的なデータは、これまでほとんど先行研究の存在しなかったオセアニア島嶼部のろう者や手話について理解するうえできわめて重要であると同時に、彼らの手話相互行為を解明するうえでも議論の基盤となるものである。 またフィールドワークを通じて、フィジー手話の相互行為を多数映像収録してきており、日本に帰国した後に、それらについてジェスチャー研究の知見をもとに分析を行ない、口頭発表を行なった。こうした成果は、〈身体〉を基礎とした手話研究の構築を目的とする本研究に大きく資するものである。 以上のことから、現時点で本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
フィジーにおいて独自の手話やろう者のコミュニティが成立してきた歴史的経緯を一層明確にするために、より多くのろう者や手話関係者にインタビューを実施する。また首都スバ以外の地域でもフィールドワークを行ない、情報の不足している民族誌的データの収集と手話相互行為の観察・収録に努める。 さらに本研究の目的を達成するために手話相互行為の分析を進める。具体的には、手話研究のほかに、ジェスチャー研究の知見、また言語学の分野からは、人間の一般的な認知能力の延長線上に言語をとらえる認知言語学の知見などを主に取り入れながら、フィジー手話相互行為の分析・考察を行なう予定である。
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Research Products
(4 results)