2015 Fiscal Year Annual Research Report
「全体主義」に抗して――R・ムージルと1920年代における「全体性」言説
Project/Area Number |
15J01070
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
津田 拓人 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
Keywords | 全体性 / 保守革命 / ゲシュタルト |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、モデルネ文学がしばしば「ゲシュタルト」概念によって政治的な「全体性」言説に接近することを研究の手がかりとして、マッハのゲシュタルト心理学の系譜上にあるR・ムージルのゲシュタルト論の研究に従事した。その過程で、ホフマンスタールの保守革命論におけるゲシュタルト論と比較検討することを通じ、前者のゲシュタルト概念のうちに、後者のような政治的なゲシュタルト概念を美学的に超克する意図のあることを見出した。 くわえて、二〇世紀初頭の「全体性」言説の布置連関の解明という問題関心に基づき、「全体性」概念の精神科学的系譜に着目し、その分析のために初期ルカーチの「全体性」概念の研究に従事した。我が国のルカーチ研究において等閑視されている最初期の演劇理論を含む彼の初期著作を、ジンメル、ディルタイらの精神科学的言説における「全体」および「意味総体」への志向という観点から再解釈することにより、共産主義の理論家にして「保守主義者」であるルカーチの「全体性」論が、同時代のとりわけ保守革命論的言説に近似する点があることを発見した。これによって、初期ルカーチの演劇理論の『歴史と階級意識』以前の前史としてのみ取り扱われてきたルカーチの「全体性」論を同時代の保守的言説の中で新たに位置づけなおすという視座を得た。 以上二点の研究成果は、分析の必要が明らかになった保守革命の「全体性」言説との比較検討を経たうえで、2016年度に論文として投稿する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1910~1920年代のドイツ語圏における「全体性」言説の研究を進めるにしたがって、生の哲学を初めとする精神科学的言説の存在が殊の外大きいことに突き当たり、当初の予定よりも精神科学の領域より知的形成を開始したG・ルカーチ関連の研究に当初の計画よりも重点を置かなければならず、その結果として論点の再設定を迫られたため。
|
Strategy for Future Research Activity |
二十世紀初頭において文学と政治が「全体性」の問題をめぐって最も過激な形で切り結んだ「保守革命」論を読み進めるなかで、そこで現れる「全体性」の諸問題が、1930年代のいわゆる「全体主義」に通じる道を提示しているように思われる。そのため、保守革命論における「全体性」言説分析により研究の重点を置き、ムージル(ないしルカーチ)の「全体性」論と比較検討し、「全体主義」に行きつかない「全体性」の可能性を探り出すことを予定している。
|