2015 Fiscal Year Annual Research Report
内部応力で誘起された巨視的異方性を有する高強度・高機能ゲルの創製
Project/Area Number |
15J01078
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 陸 北海道大学, 生命科学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ハイドロゲル / 膨潤 / 半剛直性高分子 / 巨視的配向構造 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「内部応力で誘起された巨視的異方性を有する、高強度・高機能ゲルの創製」である。現在までに、半剛直性高分子電解質の配向構造をゲル内部で制御する方法を報告している。構造制御時に用いるゲルの膨潤現象は、生体組織が成長していく過程とよく似た動的非平衡現象である。この事実は、生物の階層的秩序鵜構造の形成法を、本研究によって物質科学的視点から解明できる潜在性を示唆している。しかしながら、先行研究において提唱されている構造形成メカニズムは曖昧な部分も多く、さらなる理解のためには新しいアプローチが必要とされていた。 そこで本年度は、まず先行研究の実験系(平板状電解質ゲルの自由膨潤時における内部応力誘起と構造形成)について、新しく数理的な視点からアプローチを試みた。 他分野、特に数理分野の専門家からの意見を収集するために、数理分野の専門家に対して上記テーマの進捗状況と問題点の口頭発表(クローズド、学内)を行い、数理的な観点からアプローチ法についてディスカッションを進めた。得られた有力な数理モデルと実験結果を合わせて、「Coupled instabilities of surface crease and bulk bending during fast free swelling of hydrogel」というタイトルで国際誌に投稿中である。 また、上記目的にある高強度・高機能ゲルの創製に向けて、ゲル内部の半剛直性高分子が物性に寄与するためには(1):ゲル内における半剛直性高分子濃度の増加、(2):半剛直性高分子間の相互作用増加によるネットワーク形成、(3):多価金属イオンを用いた半剛直性高分子間の相互作用増加、といった手法が有効であるという知見が得られている。そこで来年度は知見に基づいた実験系の構築を行い、高強度ゲルの創製とその物性評価についてより詳しい解析を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
先行研究から、「膨潤中に生じる内部応力場による剛直高分子の配向構造誘起」と「静電相互作用による配向構造の固定化」の2つを達成することで、ゲル内部での剛直な高分子の配向構造制御が可能になることが分かっている。本手法はゲルに「巨視的な異方的構造」を導入するための、斬新かつ有効なアプローチと考えられる。これにより、構造に由来する機能を発現させることができれば、軟骨の多様な機能や筋肉の異方的収縮、血管の異方的力学物性などの「生体の高機能」を「人工材料」で再現することができると期待される。しかしながら現状の手法のみでは、優れた生体代替材料創製の実現は難しい。この理由として、
(a) : 実際に機能発現を狙うためには、生体組織のような3次元空間での構造制御が必要である、(b) : ゲル中の剛直性高分子が物性に寄与できていない、(c) : 媒体であるゲルの、構造材料としての機械的強度が不足している、という3つの課題が挙げられる。
課題(a)達成のためには、ゲル中の剛直性高分子の配向メカニズムについてより詳細な理解が求められる。そこで本年度は、数理的なアプローチを用いてゲルの膨潤挙動を考察した。その結果、膨潤中のミスマッチによって誘起されるゲルの立体変形がゲル表面に形成されるしわのパターンに影響を及ぼすことが明らかになった。本研究は、表面しわによって誘起されるゲル内部の応力を用いてゲル中の剛直性高分子を配向させている。そのため、膨潤中の立体変形を制御することでしわパターン(内部応力分布)を制御できることが示唆された。本結果は論文として国際誌に投稿中であり、より精細なゲル内部での剛直性高分子の配向制御法への発展が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
上記【現在までの進捗状況】中で示した課題(b)、(c)を達成するために、ゲル中の剛直性高分子の濃度を増加させることと、高分子同士の相互作用を増加させることを試みる。本手法により、ゲル中に剛直性高分子のネットワーク構造を導入することが可能となり、物性への寄与とゲルの機械的強度の増強を達成できることが期待される。得られたゲルの各種力学試験による詳細な解析を行い、ゲルの強靭化メカニズムや剛直性高分子が物性に与える影響を体系的に整理する。その上で研究成果を国際誌に出版する。
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Research Products
(9 results)