2015 Fiscal Year Annual Research Report
新規合成戦略の開発を基軸とした機能性π拡張ポルフィリンの創出
Project/Area Number |
15J01145
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福井 識人 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ポルフィリン / 縮環ポルフィリン / アミン型窒素埋め込み / p型有機材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポルフィリンは4つのピロール環からなる18π芳香族化合物である。この分子はクロロフィルやヘムの基本骨格であることから、古くより多くの化学者の興味を惹きつけ、その詳細な物性解明が行われてきた。また、近年ではポルフィリンの持つ特徴的な光化学・電気化学特性が、色素増感太陽電池や人工光合成といった応用研究に展開できることが見出され、高い注目を集めている。このような背景のもと、私は新規機能性有機材料開発の足がかりとなる基礎研究として、アミン型窒素原子を埋め込んだπ拡張ポルフィリンの合成および物性評価に取り組んだ。 研究計画において、私はジフェニルアミン縮環ポルフィリンの高収率合成法の開発を提案していた。これは過去に報告された酸化的縮環反応を鍵とした合成法は反応効率が悪く、さらなる応用に不向きであったためである。一方、私はこの一年の間に合成ルートを抜本的に見直すことで効率的な合成法を開発することに成功した。具体的には、新たに合成したメゾ位とβ位の両方がハロゲン化されたポルフィリンに対して、ターシャリーブトキシナトリウム存在化、ジフェニルアミンを作用させたところ、目的のジフェニルアミン縮環ポルフィリンを81%という高収率で合成することに成功した。この成果は既に国際学術誌であるAngew. Chem. Int. Ed.に掲載されている。今後は本反応をポルフィリン多量体に適用することで新規p型有機材料の開発を行いたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、当初の研究計画において私はこの一年で遷移金属触媒を用いたジフェニルアミン縮環ポルフィリンの高効率合成法の開発を予定していた。これはオルト位にハロゲンを有するジフェニルアミンをポルフィリンのメゾ位に導入し、その後分子内C-H活性化を伴う縮環を施すという2段階の合成戦略である。一方で実際には、各種条件検討の結果、新たに合成したメゾ位とβ位の両方がハロゲン化されたポルフィリンに対して、ターシャリーブトキシナトリウム存在化、ジフェニルアミンを作用させたところ、目的のジフェニルアミン縮環ポルフィリンを1段階で81%という高収率で合成することに成功した。また、この反応は高価な遷移金属触媒を必要とせず、安価で入手容易な試薬のみで行うことができる。すなわち、当初の想定よりも効率的な合成戦略を構築することに成功した。この成果は既に国際学術誌であるAngew. Chem. Int. Ed.に掲載されている。 また、これ以外にも研究の過程においてメゾ位に電子求引性の置換基を有するポルフィリンに酸化的縮環反応を施したところ、他のメゾ位上のアリール基が位置選択的にポルフィリン母核と結合を形成することを見出した。これは現在までに多数報告されている酸化的な縮環ポルフィリン合成ではなかなか見られないような興味深い事象である。私は軌道計算によりさらにその詳細を検討することで、メゾ位の電子求引性置換基が反応活性種であるポルフィリンのラジカルカチオンのスピン密度分布を変化させたことがこの選択性の鍵であることを見出した。加えて、これらの知見を応用することで大きな二光子吸収断面積を有するフェニレン縮環メゾ-メゾ、β-β、β-β三重縮環ポルフィリン二量体を合成することにも成功した。この成果は国際学術誌であるChem. Sci.誌に掲載されている。 以上のように私の研究は当初の計画以上に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で述べたように、私はジフェニルアミン縮環ポルフィリンの効率的な合成法を開発した。また、私は当初の研究計画において窒素原子を縮環系内に含んだ三重縮環ポルフィリン多量体の創製を予定している。そのため、まずは手始めとして開発した高効率合成法をメゾ-メゾ結合ポルフィリン二量体に適用したいと考える。次にジフェニルアミンが縮環したメゾ-メゾ結合ポルフィリン二量体に酸化的縮環反応を施すことで、窒素埋め込み型三重縮環ポルフィリン二量体を合成する予定である。 また、当初の研究計画とは別に、ごく最近私はメゾ-メゾ、β-β、β-β三重縮環ポルフィリン二量体の一つのβ-β結合の間にカルボニルが挿入した化合物を合成することに成功した。興味深いことに、従来の二量体が平面であるのに対して、この二量体においては7員環が縮環系に埋め込まれることで分子が曲面型に歪むことがX線結晶構造解析により明らかになった。今後はこの曲ったπ電子系特有の物性について詳細に検討を行いたいと考えている。
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Research Products
(10 results)