2016 Fiscal Year Annual Research Report
ケイ素錯体を基軸とした新規環拡張ポルフィリンの合成とその応用
Project/Area Number |
15J01295
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
石田 真一郎 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 環拡張ポルフィリン / ケイ素錯体 / 近赤外色素 / メビウス芳香族性 / 有機ラジカル |
Outline of Annual Research Achievements |
環拡張ポルフィリンは、ピロールユニットを5つ以上有したポルフィリン類縁体であり、巨大で柔軟なπ共役系を有することから近赤外光の吸収など興味深い物性をこれまで発現してきた。一方で、その柔軟な構造の制御はこれまで困難であり、その応用研究を妨げる一因となっていた。そこで、配位数によって段階的に構造を変化させるケイ素錯体の特徴に着目し、その特徴を取り入れることにより構造制御が可能な近赤外色素の合成が出来ると考え、研究に着手した。 ピロールユニット5つからなるペンタフィリンを基質として選択し、これまで当研究室から報告してきた環拡張ポルフィリン-ケイ素錯体の合成法を参考にして、対応するケイ素錯体を合成した。得られたケイ素錯体は24π電子系に由来するメビウス芳香族性を示すほか、取り込まれたケイ素原子は三方両錐形の5配位構造をとっていることがわかった。このケイ素錯体にフッ素イオンを添加することでSi-F結合を形成し、6配位錯体へと変化した。この配位数の変化は可逆であることも合わせて見出した。このフッ素イオンの添加により、近赤外領域を含む吸収スペクトルが変化したことから、近赤外色素の精密構造制御を達成したと言える。X線結晶構造解析の結果の比較から、この吸収スペクトルの変化はケイ素原子の配位数の変化に伴う色素構造の変化に由来していることを明らかとした。この成果は近年注目を集めている柔軟なπ共役色素の構造制御という観点からも新たな方法論を提示したものと言える。 このほかにも、ケイ素原子の導入による特異な電子的摂動に着目することで、ピロールユニット8つからなるオクタフィリンのケイ素錯体についても新規物性の発現を試みており、ケイ素原子の導入によって安定化されたラジカル種が発生することを見出している。これらの結果をもとに、今後はさらなる応用展開を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度においては、ケイ素錯体の大きな特徴の一つである配位数変化による分子構造全体の変化を環拡張ポルフィリンに取り入れることを目標の一つとしつつも、化合物の安定性の都合により達成できずにいた。しかし、今年度は用いる基質をピロールユニット5つつからなるペンタフィリンに変えることで化合物の安定性を高めることができ、目的とした配位数変化による物性変化を明らかとすることに成功した。これにより、高い応答能力を有し、かつ可逆制御可能な近赤外色素の合成を達成した。この成果はケイ素原子および環拡張ポルフィリン双方の特徴を活かし合うことで得られたものであり、重要な結果と言える。 このほかピロールユニット8つからなるオクタフィリンについても同様にケイ素錯体を合成し、この化合物ではひとつの骨格にふたつのケイ素原子を取り込めることがわかった。さらに、このとりこんだケイ素原子の構造および電子的な特徴によって、有機ラジカル種の安定な発生を達成することができた。この化合物ではケイ素原子の電子的特徴について明らかにする予定であったが、その点については当初の期待以上の成果があったと考えている。今後はこれらの物性についてより詳細に議論していく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、現在推し進めているオクタフィリン-ケイ素二核錯体を用いた有機ラジカル種の発生について、分子構造および分光学的性質の詳細を明らかにしていき、この化学種の物性を明確に捉える。加えて、理論計算による各種物性測定のサポートも合わせて行っていく。 また、これまでの研究によって、環拡張ポルフィリンのケイ素錯体は興味深い物性を数多く示す化学種であるが、一方で分子としての安定性の低さがしばしば問題となってきた。そこで、よりケイ素錯体を安定化させる手法として、ケイ素原子と強く結合する酸素原子を環拡張ポルフィリン骨格にとりこんだ化合物を新たにデザインし、そのケイ素錯体を合成する。錯体の安定性を向上させることで、基礎研究の域を超えた研究領域の広がりが可能になると考えられる。現在、すでに酸素原子を導入した環拡張ポルフィリンの合成に成功しており、現在ケイ素原子との錯体形成反応を試みている段階である。
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Research Products
(4 results)