2015 Fiscal Year Annual Research Report
ポスト植民地期ミクロネシアにおける伝統的権威の存続と動態に関する人類学的研究
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15J01374
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
河野 正治 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 伝統的権威 / 実践 / 現代ミクロネシア / ポーンペイ |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、20世紀後半に独立を果たしたオセアニアやアフリカの一部において伝統的権威が合法的権威に追いやられることなく存続していることに注目し、ミクロネシア連邦のポーンペイを対象に、伝統的権威がいかに存続しているかを人類学的に解明することを研究目的としている。その解明にあたり、報告者は伝統的権威を可変的なものと捉え、在地の人々がいかに伝統的権威を見ているのかという問いを立てた。そして、伝統的権威の≪見方・見え方≫を支える枠組みが具体的な生活実践のなかでいかに現れるのかを具体的な事例から検討することを研究課題とした。
本年度、報告者は事例検討や実地調査をもとに研究成果を積み重ねてきた。まず、葬式や祭宴に際した物財の供出における首長への協力という一場面に注目し、過去から築かれてきた当事者同士の日常的な関係性の変化とともに、当事者間における首長の≪見方・見え方≫が変わりうると論じた。成果としての論文は『文化人類学』(学会誌)に掲載された。また、ミクロネシアの他地域からの伝統的指導者の訪問に際した歓迎式典の事例に注目し、ポーンペイの首長のみならず、隣接する島嶼地域から参加した首長など、他地域の伝統的指導者がいかに参加者から見られていたのかを検討した。その結果として、ポーンペイの主催者側が異なる地域の伝統的指導者をあたかもポーンペイの首長であるかのように扱うことによって、ポーンペイの首長を頂点とした儀礼空間の秩序が可視化される一方で、多数の伝統的権威が併存するという特異な状況ゆえに、ポーンペイの首長の権威が相対化されうると指摘した。成果としての論文がPeople and Culture in Oceania(学会誌)に掲載された。そのほかにも、文化人類学会(分科会発表)や経済・政治人類学研究会などでも口頭発表をおこない、その他の事例についても同様の視点から検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は幾つかの事例検討において達成されつつあり、とりわけ、日常的に構築された関係性が状況に応じて伝統的権威の≪見方・見え方≫を変化させうるという、本研究の核となる主張を構築しえたことはひとつの大きな成果である。さらに、その主張も含めた研究成果を2つの学会誌に査読付き原著論文として掲載し、学会や研究会などでも成果を公表することができた。以上の活動や成果は研究実施計画に沿うものである。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成28年度においては、本年度に蓄積した議論を継承しつつ、首長が介在するより多様な場面を事例検討の対象に据え、実践を通じた伝統的権威の可変性という本研究の仮説を多角的に検証したい。とくに初物献上をはじめとした儀礼的貢納の事例など、より権威が露わになると想定される場面を中心に扱い、いかに伝統的権威の可変性が観察されうるのかを検討する。なお、現在では、儀礼的実践を通じて位階称号の価値がいかに出現するのかという問いに焦点を絞った事例記述と分析を進めており、平成28年度中の成果公表を目指している。
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Research Products
(6 results)