2016 Fiscal Year Annual Research Report
核子ノックアウト反応の系統的分析で探る不安定核の独立粒子描像
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15J01392
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
吉田 数貴 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ノックアウト反応 / 歪曲波インパルス近似 / 分光学的因子 / アルファクラスター |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度から継続した研究として、重い核であるSnに対するα粒子ノックアウト反応の記述を歪曲波インパルス近似(Distorted Wave Impulse Approximation: DWIA)を用いて行った。分析の結果、αノックアウト反応では歪曲ポテンシャルの虚部による核内部領域の吸収が非常に強く、核表面におけるαクラスター波動関数の振幅が選択的にプローブされることを示した。核内部ではαクラスターの存在自体が不明瞭であり、核表面でのみその描像が明らかであることから、これはノックアウト反応がαクラスター現象の良いプローブであることを意味する。また、吸収の効果は主に放出されるα粒子の吸収効果によることを確認し、従ってαノックアウト反応でプローブされる領域は距離だけでなく方向にも強い選択性が存在することを示した。これらの成果は論文としてまとめられ、すでに学術誌に掲載済である。また、この研究成果によって国際会議The 9th International Workshop on DIRECT REACTIONS WITH EXOTIC BEAMSでポスター賞を受賞した。 本年度の後半には、アルファノックアウト反応における光学ポテンシャルの虚部による吸収の効果を比較的簡便に見積もる方法を考案し、いくつかの場合において非常に良く機能することを見出した。この手法により、興味の対称であるアルファクラスター波動関数と、アルファノックアウト反応で観測される断面積との対応がよりクリアに理解できる。これらの結果は論文として纏め、論文誌に投稿予定である。 また、直近の成果として、核子ノックアウト反応の記述についてDWIAと近年提唱されたTransfer to the continuum modelとの反応モデルの比較を行い、両者の結果が非常に良く一致することを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2016年度の研究計画であったアルファノックアウト反応への拡張およびその分析は当初の研究計画以上の成果が得られた。歪曲波インパルス近似を用いたアルファノックアウト反応の記述は、実験結果の再現に成功するだけでなく、その分析によって以前から知られていたアルファノックアウト反応の表面性だけでなく、その遷移行列の振幅はアルファ粒子が放出される方向に非常に強く依存することを明らかにした。また、重い原子核に対するアルファノックアウト反応では、歪曲ポテンシャルの実部が深いことによって歪曲波インパルス近似で従来用いられてきたfactorization近似が特に悪くなることが予想されたが、実際には同時に歪曲ポテンシャルの虚部が深いことによって吸収効果が強く、この近似は重い原子核に対する場合でも良く機能することを明らかにした。これらの成果はすでに論文誌 Phys. Rev. C 94, 044604 (2016) に掲載済みである。 また、アルファノックアウト反応における光学ポテンシャルの虚部による吸収の効果を比較的簡便に見積もる方法を考案し、この方法がいくつかの場合において非常に良く機能することを確認した。この手法については今後さらに分析を深め、論文誌に投稿予定である。 上述のように2016年度の研究は予定以上の成果を収めており、当初の計画以上に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一の研究計画として、初年度開発した理論計算では無視されていた核子ノックアウト反応におけるスピン依存性をあらわに取り入れたものへと理論・計算コードを拡張する予定である。従来の歪曲波インパルス近似によるノックアウト反応の記述ではその遷移は核内の2核子有効相互作用で記述されるが、この拡張により核内2核子相互作用のスピン依存性・密度依存性をあらわに取り入れることが可能となる。これは、核子ノックアウト反応がその核子の1粒子状態を探索するという従来の手段としてだけではなく、核内すなわち媒質中での2核子間有効相互作用の密度・スピン・アイソスピン依存性を探索する手段として利用可能となることを意味する。 第二の研究計画として、現在の反応理論を多核子による多核子ノックアウト反応へと拡張することを目指す。例えば重陽子による2核子ノックアウト反応(d,pn2N)反応である。このような反応の記述に成功すれば、その分析を通じて、ノックアウトされた2核子の核内相関を探索することができる。これは原子核を1粒子描像を超えた視点でみることを意味し、つまり原子核の1粒子描像が実際にはいかに破れているかを探索することができる。
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Research Products
(9 results)
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[Presentation] 核子ノックアウト反応でみる媒質中での2核子散乱2017
Author(s)
K. Yoshida, K. Minomo and K. Ogata
Organizer
基研研究会「核力に基づく核構造,核反応物理の展開」
Place of Presentation
Yukawa institute for theoretical physics, Kyoto,
Year and Date
2017-03-27 – 2017-03-29
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[Presentation] 重陽子による核子ノックアウト反応の記述2016
Author(s)
K. Yoshida, K. Minomo and K. Ogata
Organizer
JPS 2016 Fall meeting
Place of Presentation
Miyazaki university, Miyazaki
Year and Date
2016-09-21 – 2016-09-24
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