2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J01441
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤本 圭佑 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ポルフィリン / π拡張 / リン / 会合 / 構造固定化 / 反転障壁 / フリーデル-クラフツ反応 / 芳香族安定化 |
Outline of Annual Research Achievements |
1) リン原子をπ共役平面内に有する化合物として、ジフェニルホスフィン(オキシド)縮環ポルフィリンの合成を達成し、リン原子の構造固定化による特異的な性質を見出すことができた。また、これらの化合物は構造固定化により高い会合能を示し、ホスフィン体は高スピン五配位ニッケル中心を持つ二量体を形成するという点で、ホスフィンオキシド体はエントロピー駆動の会合を示すという点で、特徴的であることがわかった。 2) 三価の有機リン化合物のリン中心はピラミッド構造を安定にとり、これに対し平面構造はおよそ30kcal/mol不安定である。そのため「平面リン化合物」は特殊な系に限られ、未解明な化学種である。1)の研究から、ジフェニルホスフィン縮環ポルフィリンのリン中心が高い平面性を示すことがわかったため、メシチル基を標識として持つ類縁体を合成し、反転の活性化エネルギーを導出することで、平面構造のエネルギー的な安定化について調べた。すると、ジフェニルホスフィン縮環ポルフィリンは13.8kcal/molと、非常に小さい反転障壁を示すことがわかった。さらに平面構造の安定化の原因について考察を行ったところ、1) リン原子の構造固定化、2) リン原子上の孤立電子対の共役により生じる芳香族安定化の二つが示唆された。 3) 以上の研究で得た知見をもとに、平面構造のさらなる安定化による「平面リン化合物」の実現を期待して、ヘテロ芳香環を有する一連のジアリールホスフィン縮環ポルフィリンを設計し、ワンポット-フリーデル-クラフツ型反応を経由する新たな手法を開拓することで合成を達成した。これらの化合物のリン中心は、ピラミッド構造を安定にとるが、より小さな反転障壁を示し、ジフェニルホスフィン縮環ポルフィリンと比較して、より効果的に平面構造を安定化することに成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、ホウ素またはケイ素原子を用いた分子開発を行う予定であった。しかし、1年目の研究成果であるジフェニルボラン縮環ポルフィリンのホウ素原子をリン原子に置き換えた化合物について研究を行ったところ、興味深い知見を見出したため、方針を切り替えて進めている。 ジフェニルホスフィン(オキシド)縮環ポルフィリンは構造固定化されたリン中心を持つという珍しい化合物であり、その構造に基づいた新たな性質を見出すことができた。さらに、1) 構造固定化や、2) 芳香族安定化により、平面構造が効果的に安定化され、非常に小さな反転障壁の値を示すことがわかった。この結果は、π共役化合物についての基礎的な理解を深めるのみならず、未解明な化学種である「平面リン化合物」の実現に向けての重要な知見となった。この知見をもとに、より効果的な平面構造の安定化を試みたところ、一連のジアリールホスフィン縮環ポルフィリンの合成を達成し、合成の際には、ワンポット-フリーデル-クラフツ型反応を経由する新たな手法を開拓することに成功した。これまでに、およそ9kcal/molの小さい反転障壁を示すリン化合物の合成を達成しており、今後は、さらなる改良を行うことで、通常のピラミッド構造よりも平面構造が安定なリン化合物が合成できるのではないかと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平面構造を有する三価三配位の有機リン化合物は、性質や機能がほとんど未解明な化学種であり、興味深い目的化合物である。これまでの本研究において、ジフェニルホスフィン縮環ポルフィリンは、通常のリン化合物と比較して、平面性の高いリン中心を持ち、反転の遷移状態である平面構造が効果的に安定化されていることが明らかとなった。この理由について考察を行ったところ、1) リン中心の構造固定化、2) 芳香族安定化の二つにより、ピラミッド構造に比べて平面構造が安定化されていることが想定された。そこで、1) 2) の知見を活かした分子設計を行うことで、今後は平面構造を基底状態として持つ化合物の合成を試みる予定である。具体的には、ポルフィリン内部の金属や縮環構造を調節することで、1) より剛直な平面にリン原子を埋め込むことや、2) リン原子上の孤立電子対がより有効に共役するπ電子系の構築を行っていく予定である。さらに、平面リン化合物の合成を達成した後には、その構造や光学、電気化学的性質、反応性などを明らかにし、新たな機能を探求していきたい。
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Research Products
(5 results)