2015 Fiscal Year Annual Research Report
力触覚提示機能を有するネットワーク型脳外科手術シミュレータの開発
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15J01452
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐瀬 一弥 北海道大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 手術シミュレータ / 有限要素法 / ハプティクス / 計算力学 / 医用画像 / 並列計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,力触覚提示機能を有する脳外科手術シミュレータの開発,および,脳外科手術シミュレータのネットワーク接続による遠隔ユーザ間VR環境共有の実現を目的としている.昨年度は手術シミュレータの要素技術開発を行い以下(1)-(3)のような結果を得た.これらにより,脳外科手術シミュレータの基本的な機能を実現し,次年度におけるシミュレータのネットワーク接続に向けた基礎を構築することができた. (1) リアルタイム手術シミュレーションの研究分野では,メスによる切開などの鋭的剥離のモデリングが盛んに行われてきたが,組織の材料特性に基づく鈍的剥離のモデリングは十分に行われていなかった.鈍的剥離シミュレーションの問題として,破壊に伴う不安定化と計算量の増加があり,本研究では要素削除に基づいたシンプルかつ高速な安定化手法を開発した. (2) 本研究では,生体軟組織の変形計算において信頼性を保証するため,高精度な数値計算が可能な有限要素法を採用しているが,脳全体の変形計算を行うためには数値計算を高度に最適化し高速計算を行う必要がある.そこで,共回転系定式化に基づく有限要素法をGPUによる並列計算によって高速化し,脳全体モデルの変形計算において,マルチコアCPUによる実装に対し2倍の計算速度を実現した. (3) 医用画像に基づく患者固有の臓器メッシュ生成は手術シミュレータの課題のひとつである.特に,脳は多くの溝構造を持ち,これをメッシュに反映することは困難であった.本研究ではこの問題を解決するため,重複要素を用いて溝構造を保存する有限要素メッシュ生成手法を開発した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は,実時間計算可能な計算コストという制限下で,可能な限りの物理的正当性を実現する数値モデルの開発,および,シミュレータのネットワーク結合のための基礎的システム構築を予定していた. 数値モデルの開発については,GPUに適したアルゴリズムを開発・検証し,現行の計算リソースにおいて有限要素法に基づくモデルを実用的に利用できることが確認されたため,雑誌論文で発表した.さらに,当初の予定通り,高精細グラフィクスと有限要素メッシュの分離により視覚的妥当性の向上を図った.また,患者固有モデルの生成を容易にするため,医用画像に基づいた任意解像度の有限要素メッシュ生成手法の開発と基礎的検討を行い,国内会議で発表した.これらの成果によって脳外科手術シミュレータの基本的な機能を実現することができた. しかしながら,生体軟組織の変形モデリングと高速計算手法の要素技術開発に期間を要したため,当初予定していたネットワークを利用した複数遠隔ユーザによる同一仮想手術の共有についての基礎検討に取り組むことができなかった.この点については次年度の課題である.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は (1) 開発した要素技術の洗練および論文・国際会議等による発表を行うとともに,(2) 手術シミュレータのネットワーク接続による仮想手術環境の共有を目指した基礎研究を進める. (1) 前年度に開発した医用画像に基づくメッシュ生成手法は,二次元問題において検証されたが三次元問題については未検証であったため,これに取り組む.さらに,同メッシュ生成手法は医用画像のボクセルデータを一様格子メッシュに埋め込むアプローチをとっているため,メッシュの境界適合性がない.これを解決するための剛性マトリクスの構築法や接触判定法の開発を行う.これらの成果は雑誌論文等へ投稿予定である(7月投稿予定). (2) 遠隔地の複数ユーザが参加可能なシステムを構築し,複数ユーザが脳べらによる脳組織の圧排の力感覚を共有可能なアプリケーションの開発を目指す(8月以降).まずは研究室内でシステムを構築し,通信遅延のモデルをローカルコンピュータの中に取り入れることで遅延のあるネットワークを模擬する.その後,前年度開発した手術シミュレータをネットワーク結合し,複数ユーザの同時作用を可能とする基礎研究を行う.同一仮想環境への複数ユーザのインタラクションについてはゲーム産業におけるオンラインマルチプレイを,遅延のある触覚の共有についてはロボットマニピュレータの遠隔操作の研究などを参考にする.特に目的である脳べらによる術野確保時の触覚の共有を念頭に置き,実用性を考慮しながら基礎的課題を抽出する.研究室における基礎研究の後,実際に遠隔地同士の通信を行うことで有効性を確認する.ここでは病院や他大学の研究室などに協力を依頼する予定である.なお,遠隔力覚インタラクションを優先的に取り組み,PCクラスタやモバイル端末のネットワーク接続による個々の端末の性能を活かした役割分担は,残りの時間で基礎的な検討を行うこととする.
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Research Products
(4 results)