2016 Fiscal Year Annual Research Report
コンゴ民主共和国東部州における流通網の現状とその再建
Project/Area Number |
15J01455
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高村 伸吾 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 紛争後社会 / 定期市 / 河川交易 / 零細商人 / 住民組織 / 内発的発展 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、コンゴ東部における流通構造の変化と人々の適応戦略を実証的に解明し、“公”が機能しない社会状況の中、どのように秩序の回復が試みられているのかを明らかにすることである。本年度の調査ではコンゴ東部州の州都であるキサンガニから赤道州ジョルまでを広域的に踏査し、47の定期市を直接観察した。各市場の面積と位置を同定したうえで、零細商人・市場監督官に対して流通構造の変化が農村社会にもたらした影響について聞き取りを行った。また、橋の再建を目指す住民組織を訪問し、グループ結成の経緯・成員数・活動内容について聞き取りを行った。調査の結果、零細商人による水陸ネットワークの再生が地域の商品流通を可能にしていることが明らかになった。紛争による陸上輸送網の荒廃に対して、コンゴ零細商人はまず伝統的な丸木舟を用い、定期市を基点とした水上ネットワークの回復を志向している。その後、アジアで生産されたの安価な工業製品の流入をうけて、商人たちは船外機を動力とした平底船などの新技術を導入し、独自に水上輸送の効率と安定性を高めることに成功した。こうした水上輸送網の再構築の結果、商品流通が遮断されていた内陸農村部にまで新たな定期市が簇生し、キサンガニと農村部をむすぶ広域的な水陸ネットワークが形成されることとなった。都市への販路が確立された結果、農村部の生業にも変化が生じている。調査地域では紛争終結以降、都市の食糧需要に呼応した米の増産やディーゼル式精米機の導入など農業の集約化・商業化が進展している。しかし、車両交通が寸断された内陸地域において農産物流通は未だ人力によっておこなわれており、多大な労働負担が伴う。車両交通を回復するため橋再建をめざす住民組織活動が今日、活発化しているが、現地でのアクションリサーチを通じて、 現金稼得の制約もあり住民組織単独でのプロジェクト遂行は極めて困難であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、昨年度までに得られたデータを分析し、紛争による流通構造の変化と人々の適応について日本アフリカ学会にて発表した。その後、学会でのコメントをもとに調査計画を整え、コンゴ東部州、赤道州に及ぶ5ヶ月の広域調査を実施した。フィールドワークでは、これまで調査できていなかった東部州オパラならびに赤道州ジョル近郊にて合計47の定期市を直接観察し、コンゴ東部における都市と農村を結ぶ流通構造の全体像を明らかにした。同時に、橋再建に従事する住民組織にてアクションリサーチを行い、人々の内発性に立脚した橋再建モデルの創出を試みた。年度末の生態人類学会では住民組織の持つ課題と可能性について口頭発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、報告者は収集したデータの分析、研究会での発表を行いながら学術雑誌への投稿論文を執筆している。次年度はこれまで観察した流通構造の変化を下敷きに、流通の担い手であるコンゴ商人が紛争以降どのように商業活動を拡大してきたのか、彼らの適応戦略を明らかにする。また、今回実現した住民組織による橋再建を東部地域に敷衍・普及するための方法論についても検討を加える。住民組織による橋再建には前述したように資金・事業運営経験の欠如など数多くの障害が存在しており、住民単独での課題解決には困難が伴う。今後は地域内部に存在する行政・農村住民・商人・援助機関など諸アクターとの協働を視野に入れ、“公”の不在を補完する新たな“共同性”の構築を目指す。
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Research Products
(1 results)