2015 Fiscal Year Annual Research Report
プトレマイオス王国における体育訓練機関ギュムナシオンからみたギリシア化の研究
Project/Area Number |
15J01467
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
波部 雄一郎 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | プトレマイオス朝 / ギュムナシオン / エフェボイ / ヘレニズム王朝祭祀 / エジプト |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究課題は、ヘレニズム時代東方の領域王国における体育・軍事訓練機関であるギュムナシオンについて、プトレマイオス朝を事例とした研究である。本研究の目的は、ギリシア語碑文・パピルスの分析を行い、(1)ヘレニズム時代における「ギリシア化」の実態解明、(2)ヘレニズム王国の領域支配におけるギュムナシオンの役割の解明、(3)ギュムナシオンを活動の中心としたアソシエーションのオリエント地域における役割の解明を目的としている。 (1)ギュムナシオンの研究を通したオリエントのギリシア化については、プトレマイオス朝の中心地域であるエジプトにおいて、ギュムナシオンの建設年代を確定作業を行った。同地から出土したギリシア語碑文、パピルスを分析した結果、ギュムナシオンが紀元前250年ごろにギリシア系入植者の多い中部のファイユーム地方で相次いで創設され、紀元前2世紀以降、南部へと拡大したことを指摘した。それにより、エジプトにおけるギリシア人入植とプトレマイオス朝支配の浸透がこの時期に進んだことを明らかにした。 (2)ギュムナシオンとヘレニズム王朝の領域支配の問題については、史料の分析の結果ギュムナシオンがエジプト各地の村落におけるプトレマイオス朝君主礼拝の中心であったと指摘できた。プトレマイオス朝が王の神格化とその制度化を王国全土で行っていたことから、ギュムナシオンはプトレマイオス朝のエジプト支配の拠点として期待されていたことを明らかにした。 (3)ギュムナシオンにおけるアソシエーションの活動については、青年団であるエフェボイ、地域的な青年による団体であるネアニスコイについて考察を行った。ギリシア語パピルスを分析し、これらの団体のプロソポグラフィを作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度はヘレニズム時代のエジプトのギュムナシオンについて、国内研究機関および海外研究機関において資料収集と、その分析を予定してたが、資料・文献の分析を計画どおりに行うことができた。同時にプトレマイオス王国におけるギュムナシオンの創設とその伝播を地域的・年代的に明確にできたこと、ギュムナシオンに関連する人名の抽出とそのデータ化(公職、出自、活動等)の作業状況についても計画通りに研究を進めることができた。プロソポグラフィの作成については現段階では作業中であるが、2年目を達成目標年度に予定しているため引き続き作業を行う。 また、研究成果の一部を2015年度日本オリエント学会大会において報告した。 以上の理由から、研究課題の進捗は順調であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の計画段階では、ギュムナシオンの研究を通してヘレニズム時代のエジプトにおける「ギリシア化」の実態解明を期待していた。しかし検討の結果、その定義を具体化することが困難であること、ギュムナシオンの特徴が地域ごとに多様であることから、エジプト各地でのギュムナシオン建設と各地への伝播をもってギリシア化の指標と定義することは困難であると判明した。そのため、2年目以降はプトレマイオス朝のエジプト領域支配においてギュムナシオンがどのような役割を果たしたのかという点を研究課題の中核として、作成したギュムナシオンにかんするプロソポグラフィをもとに、ギュムナシオンとプトレマイオス朝の行政機構との関係に着目する。その過程において、ギュムナシオンにおけるオリエント系民族の動向を取り上げ、ギリシア化の問題について考察する。 また、同じくヘレニズム領域国家であったアンティゴノス朝、アッタロス朝、セレウコス朝の王国内におけるギュムナシオンや、アテナイなどギリシア本土のギュムナシオンを事例として参照し、比較を行うことでプトレマイオス朝の特性を明確化するだけではなく、広くヘレニズム世界の社会的文脈の中で位置づけることを平成28年度以降の目的としたい。
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