2015 Fiscal Year Annual Research Report
資源量変動を考慮したアカイカ分布場推定モデルの開発
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15J01506
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
西川 悠 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球情報基盤センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 生態系モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、海洋環境の変動から低次生態系の変動、個々の魚の資源量と回遊、漁獲を含む高次捕食者の影響を考慮したend-to-endモデルの研究で世界をリードするラトガース大学に滞在し、モデルの解析を通してend-to-endモデルの取り扱いを学んだ。特に北太平洋の生態系に大きな影響を与える太平洋十年規模振動のうち、最も顕著な変動が見られた1976-77年に着目し、気候変動が低次生態系の変化を通じて北東太平洋の小型浮魚に与える影響、および魚種間の生態の差異によって同じ環境変動に対する応答がどのように変化するのかを調べた。 1976-77年の気候変動によって北東太平洋のプランクトンが減少したことは古くから知られていたが、その原因とどの魚が影響を受けるか、また魚種によって応答の違いがあるのは何故なのかは完全には解明されていなかった。高解像度のend-to-endモデルの解析の結果、北米沿岸で冬季の沿岸湧昇の弱化が冬春季のプランクトンの減少を引き起こし、沿岸部で冬春季に索餌する魚の生残に影響を及ぼしたことが示唆された。一方で沿岸湧昇弱化の影響は沿岸部に限られるため、回遊経路が沖合にまで及ぶ魚種はその影響を受けにくかった。さらに、北米沿岸部の沿岸湧昇は冬に弱く夏に強くなることから、これまで沿岸湧昇の経年変動は夏を中心に測定されてきたことで、冬季の沿岸湧昇の強弱が低次生産に与える影響が見過ごされて来た可能性が示唆された。冬季には季節風の影響でしばしば沿岸湧昇が止まり、沿岸湧昇の有無が低次生産に大きな影響を与えていたと考えられる。以上の成果は論文にまとめ、投稿準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に得られた結果は、気候変動と魚の資源量変動を結びつける研究を行う際には、重要な現象を捉えることができる時空間スケールを持った海洋モデル・低次生態系モデルと、回遊を含めた魚の生態に則したライフサイクルを組み込んだ個体ベースモデルの結合が不可欠であることが明らかになった。特にこの結果は、黒潮の不安定性により北東太平洋に比べより微細な時空間スケールでの変動が重要となる北西太平洋のモデル研究を行う上で、重要な示唆を与える。 このような観点から、アメリカにおいてend-to-endモデルの開発の中心となったラトガース大学、ルイジアナ州立大学、カリフォルニア大学の研究者、および北西太平洋で生態系モデルの開発を行っている日本の研究者と、今後北西太平洋に同様のend-to-endモデルを移植する上で必要な作業や行程に関する打ち合わせを行った。来年度には、当初の研究対象である北西太平洋において高解像度end-to-endモデルの開発に着手できる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度の研究から得られた結果をまとめ、査読ありの学術誌へ投稿する。また、北西太平洋にカリフォルニア海域用に開発された高解像度end-to-endモデルを適用する。環境特性やプランクトンの種類が異なる海域であるので、平成28年度中はモデル内のプランクトン密度の再現性を高めるためのチューニング作業を行う予定である。また、北西太平洋ではモデルの中の高次捕食者としてアカイカを想定しているので、アカイカの棲息深度や遊泳速度など、回遊行動をモデリングするために必要なデータを収集する。平成29年度は、アカイカまで組み込んだ高解像度end-to-endモデルを動かし、アカイカ漁場の予測可能性について検討する。
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