2016 Fiscal Year Annual Research Report
資源量変動を考慮したアカイカ分布場推定モデルの開発
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15J01506
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
西川 悠 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球情報基盤センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 回遊モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
魚の回遊行動をシミュレートするモデルは、大別して魚をグリッド上の密度で表現するオイラー型と、個々の魚を粒子で表して動きを追うラグランジュ型に分けられる。このうちオイラー型モデルはすでに複数の魚種の漁場推定に利用されているが、ラグランジュ型モデルの開発は遅れていた。平成28年度は、5月までRutgers大学に滞在し、同大学が中心となって開発した浮魚類を対象とする最新のラグランジュ型の回遊モデルの改良・解析手法に関する知見を収集した。この研究の一環として、1976/77年に太平洋全域で観測されたレジームシフトが、カリフォルニア海流域の浮魚類にどのような影響を与えたかをモデルから調べた。次に、北西太平洋のアカイカを対象とする回遊・漁場推定を行う上で最適なモデルを選択するため、ラグランジュ型モデルも含めた複数の海洋生態系モデルの特性を比較検討した。特にアカイカの回遊経路の決定に大きく影響するプランクトンの分布を正確に再現するため、低次生態系と高次栄養段階生物の回遊行動を組み合わせたモデルを中心に検討を行った。ここから、平成29年度にアカイカの回遊行動をラグランジュ型とオイラー型の双方でシミュレートし、海況に対する応答や最終的に得られる漁場形成パターンにどのような差異が見られるかを検証する研究が必要であると判断し、モデリングに必要な情報の収集を行った。また、アカイカの回遊行動モデリングの研究と並行して、正確なシミュレーションに不可欠な北西太平洋のプランクトン分布再現のため、特にアカイカの主要漁場が形成される東北沖においてプランクトン生産がどのような海況に依存して変動するかを、観測データや海洋モデルの解析から調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Rutgers大学が開発したラグランジュ型の回遊モデルは、世界初のメソスケール(数十kmスケール)の解像度を持ち、これによって中規模渦やフロント構造など、魚の回遊行動に大きく影響する主要な物理現象を考慮できるようになった。このモデルの解析から、1976/77に太平洋で起きたレジームシフトが浮魚類に及ぼした影響の詳細を示すことができた。またこの結果は、アカイカの回遊行動シミュレーションで要求される精度を考慮すると、理論的にはラグランジュ型モデルとマグロ・カツオ類の漁場推定で使用されるオイラー型モデルで大差ない結果が得られることを示す。しかし、複数の回遊モデルのシミュレーション結果を比較検討した結果、アカイカの漁場予測にはオイラー型モデルとラグランジュ型モデルのどちらが適切か、簡単に結論を出すことはできないことがわかった。それぞれのモデルで必要とするデータの量や計算コストが異なるためである。ここから、これまでにモデル間で同じ魚種の挙動をシミュレートして性能比較を行った実験はないが、種々のモデルが実利用可能なレベルに達した現在、性能比較を行うことも急務であると考え、平成29度はオイラー型とラグランジュ型モデルでアカイカの漁場予測に関するシミュレーションを行い、結果を比較する計画を立てた。この研究計画に基づき、モデリングに必要なデータを収集し、専門家と協議の上モデルパラメータのチューニングを完了させた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究において、オイラー型とラグランジュ型双方の個体ベースモデルの解析から、アカイカの回遊行動を表現する上での双方の長所と短所を比較した。その結果、オイラー型モデルは計算が容易で漁場推定モデルの実利用を考える上では有望であるものの、成長ステージにおける詳細な分布データが必要であり、データが豊富とはいえないアカイカの回遊を再現できるかは未知数であることがわかった。一方でラグランジュ型は、計算する粒子数(個体数)を増やせば現実的な結果が出せる見込みがあるものの、そのためにどれほどの計算時間を要するかがわからない。実際にアカイカの漁場を予測し、有益な情報を漁業者に提供するためには、なるべく低い計算コストで現実的なシミュレーションを行わなければならないので、性能比較は不可欠である。そこで平成29度は、アカイカを対象とするオイラー型およびラグランジュ型の回遊モデルを作成し、どちらのモデルが再現性や計算時間といった点で、より漁場予測に適するかを議論する。どちらのモデルも実際の回遊魚に適用されているが、アカイカの漁場予測に必要とされる数十km以下の解像度のモデルが、日本近海に適用された例はない。また、漁獲対象種である魚の多くは、アカイカ同様詳細な分布データが得られているわけではない。したがってこの研究の結果は、アカイカ漁のみならず、イワシやサンマなど同様の回遊生態を持つ重要魚種の漁獲効率向上へも寄与することが期待される。
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Research Products
(4 results)