2015 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン性部位を有する金属錯体を用いた窒素分子変換反応の開発
Project/Area Number |
15J01547
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
戸田 達朗 東京工業大学, 大学院理工学研究科(工学系), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ピンサー型錯体 / ルテニウム / N-ヘテロ環状カルベン / カルボニル錯体 / ニッケル |
Outline of Annual Research Achievements |
窒素分子への多プロトン/多電子移動を円滑に進行させる金属錯体の創製を目指し、本年度は当初の研究実施計画に沿って、中心金属から窒素分子への逆供与能の向上を期待し、配位子の中央部位にフェニル基やN-ヘテロ環状カルベン(NHC)部位など、高い電子供与性をもつ骨格を導入したルテニウム錯体を合成し、それらの性質を精査した。また、ルテニウム以外の金属錯体への展開も並行して取り組んだ。 NHC骨格を導入したプロティックなピンサー型ビス(ピラゾール)ルテニウム錯体については、電気化学測定の結果、従来の錯体と比べて酸化波が負側に観測され、期待したように中心金属の電子密度が向上していることがわかった。また、合成した錯体に対して、一酸化炭素雰囲気で脱プロトン化を行うと、ビス(ピラゾラト)カルボニル錯体が得られた。赤外スペクトル測定ではカルボニル配位子の吸収が、従来の錯体と比べて高波数側に観測され、金属からカルボニル配位子への逆供与が十分働いていないことがわかった。DFT計算の結果、ピンサー配位子のねじれの影響で逆供与能が低下していることが示唆された。 また、分子内にσ供与性の大きなフェニル基を導入したNCNピンサー型錯体については、汎用性の高い合成法の開発を目的として、炭素-臭素結合をもつ配位子を新たに合成し、酸化的付加によるシクロメタル化を検討した。その結果、[Ni(cod)2]への酸化的付加が進行し、平面四配位型のプロティックなNCNピンサー型ニッケル錯体が得られた。同様に、[Ru(cod)(cot)]への酸化的付加も進行し、対応するルテニウム錯体が得られたことから、この方法が一般に適用可能であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
窒素分子の還元的変換を達成するためには、金属から配位窒素分子への強い逆供与による十分な活性化を行う必要がある。現在までに、フェニル基やNHC部位など高い電子供与性をもつ骨格を導入した錯体の合成に取り組み、フェニル基やNHC部位の導入により中心金属の電子密度が向上することを明らかにしている。また、キレート環の拡大にともなってピンサー骨格がねじれ、その結果、金属からの逆供与能が低下することも見出している。これらの結果は、窒素分子の還元的変換を目指す上で重要な知見であり、当該研究は順調に遂行できていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を基に、ピンサー骨格のねじれを解消することで逆供与が効果的に働かせるために、本年度得られたNHC錯体のキレート環を縮小した錯体を新たに合成し、逆供与能の向上を図る。 これまでに合成した錯体ではいずれも窒素分子の還元的変換は実現できていない。これは配位窒素分子への逆供与・電子供与が十分でないためであると考えられる。そこで、錯体に対して還元剤を添加する、あるいは光照射を行うことで低原子価種を生成し、窒素分子への電子移動を促進する。 また、窒素分子よりも還元的変換が容易であると考えられる酸素や二酸化炭素といった不活性小分子や、窒素分子の部分還元体であるヒドラジンなどの化学変換を検討する予定である。
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Research Products
(4 results)