2015 Fiscal Year Annual Research Report
革新的水素機能性ナノ材料の創製及び分光学的手法を用いたメカニズムの解明
Project/Area Number |
15J01605
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
出倉 駿 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ナノ粒子 / 水素吸蔵 / 固体NMR / 合金 / パラジウム |
Outline of Annual Research Achievements |
水素は重要な工業ガスとしてのみならず、環境調和型の理想的なエネルギー源として益々注目されている。一方、金属ナノ粒子はバルク金属とは異なる性質や高い触媒能を有することから、基礎から応用まで幅広く研究がなされている。水素貯蔵に関してはバルク金属にはない吸蔵サイトやレスポンスを有する他、水素分子が乖離して固体中に侵入し、結晶構造を変化させ特性を向上させるなど、新たな水素機能性材料として多大な注目を集めている。しかし、金属ナノ粒子の新奇な水素機能のメカニズムについては全く明らかになっておらず、最も有名な水素吸蔵金属であるパラジウム(Pd)でさえ不明な点が多い。本研究では、表面保護剤によるPdナノ粒子の水素吸蔵特性の制御と、新規固溶合金ナノ粒子の合成・物性探索を通して、金属ナノ粒子のサイズ・形状・表面状態・組成がもたらす特異な水素吸蔵特性と、その電子状態を詳細に調べ、系統的に理解することを目的としている。これを実現する有力な手法として、水素圧力下in situ固体NMR測定の手法を用いることで、ナノ粒子に吸蔵された水素原子の化学的状態や、それを通してナノ粒子自身の電子状態、特にフェルミ準位近傍の電子状態に関する情報が得られると期待される。 Pdは水素圧力の上昇とともにα相と呼ばれる水素固溶相からβ相と呼ばれる水素化物相に相転移するが、先行研究においてPdナノ粒子は水素吸蔵過程でバルクとは異なる相転移挙動を示すことが報告されている。当該年度ではPdナノ粒子の水素吸蔵に伴う特異な相挙動と電子状態の関連について詳細に調べた。 ポリマーであるPVP(ポリビニルピロリドン)で保護された大小異なるPdナノ粒子の水素圧力下in situ固体NMR測定の結果、α相の電子状態が、サイズの減少とともにβ相に近い状態になっていることが示唆された。これはナノサイズ化によって本質的に電子状態が変化していることを示唆する非常に意義深い結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては、表面保護剤によるPdナノ粒子の水素吸蔵特性の制御に先駆け、以下のような研究を行い、有意義な結果を得た。 水素圧力下in situ固体NMR測定において、バルクのPdにおいては、α相の水素は高磁場側に、β相の水素は低磁場側にシグナルが観測され、水素吸蔵量の増加に伴いシグナルが低磁場側にシフトする。一方サイズの異なるPdナノ粒子については、重水素圧力下での2H固体NMR測定結果より、サイズが減少するにつれてNMRシグナルがより低磁場側に現れる傾向がみられた。さらに、バルクにおいてはα相とβ相の水素のシグナル位置はかなり異なっているにも関わらず、7.6 nmのナノ粒子においては非常に近い位置に観測され、2.0 nmのナノ粒子に至っては単一成分のみが観測された。このことから、α相の電子状態が、サイズの減少とともにβ相に近い状態になっていることが示唆された。 当初の計画では本年度においてはPdナノ粒子の水素吸蔵特性の表面保護剤依存性を詳細に調べることを目的としていたが、Pdナノ粒子の水素吸蔵特性及び電子状態がそもそもバルクのものと異なることが明らかとなったため、本年度はまずそちらに焦点を絞って研究を行った。その結果、上述の通りの知見を得られており、このことは表面保護剤による水素吸蔵特性の制御の研究に繋がる非常に有意義なものである。 また、バルクで相分離する組み合わせの元素であるAgRu固溶合金ナノ粒子については未だ合成法の確立には至っていないが、Ag及びRu前駆体、還元剤、溶媒、温度、仕込比等を様々に変え、合成を試みた結果、部分的に固溶合金を形成している試料が得られており、方策は立ちつつあるため、次年度以降速やかに物性測定に以降できると考えられる。 以上のことから、当初の計画以上の結果が見込めると考え、計画以上に進展しているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度においては、表面保護剤を電子受容分子や電子供与性分子に変えたPdナノ粒子を大量合成し、電子状態や水素吸蔵量に与える影響を詳細に調べる。具体的には、X線光電子分光やSQUIDによる磁化率測定等で電子状態変化を調べ、水素圧力-組成等温曲線、水素圧力下in situ固体NMR測定で水素吸蔵量に対する効果や、吸蔵された水素の化学的環境との関連性、また水素の環境を通してPdナノ粒子の電子状態を調べる。その際、本年度に得られたPdナノ粒子のサイズ依存性に関する知見をもとに、保護剤の効果とナノサイズ化の効果を切り分けて議論を行うことを目指す。 また、引き続きAgRu固溶合金ナノ粒子の合成に挑戦し、合成に成功し次第、水素吸蔵特性をはじめ種々の性質を詳細に調べ、Pdナノ粒子との違いを電子論的に考察することを目指す。 進捗次第では、他の水素吸蔵能を示しうる固溶合金ナノ粒子も合成する。
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Research Products
(6 results)