2015 Fiscal Year Annual Research Report
ランダムな環境におけるネマチック液晶の非線形レオロジー
Project/Area Number |
15J01614
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
芳賀 大樹 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | ランダム系 / 液晶 / 超流動 / 非平衡相転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 本研究課題の目的は、多孔質媒質やエアロゲルといったランダムな環境中を流れるネマチック液晶のダイナミクスやレオロジーを、シンプルな有効モデルの導入とその解析を通して理解することである。ネマチック液晶は棒状の分子から構成されており、高温では等方的な液体として振る舞うが、ある温度以下では分子が特定の方向に揃うことで異方的な相(ネマチック相)が実現する。本研究の第一年目では、ランダムネスと流れとの競合がこうした秩序相の性質にどのような影響を及ぼすのかを調べた。 ランダムな媒質中を一様な速度で駆動される液晶のダイナミクスを記述する数理モデルを、簡単な理論計算と数値実験とを組み合わせて解析することで、新しいタイプの秩序相(準長距離秩序相)が実現することが明らかとなった。この特殊な秩序相は、大域的な秩序はもたないものの、その近傍で秩序変数が急峻に変化するトポロジカル欠陥と呼ばれる構造をほとんど含まないという点で、通常の秩序相と無秩序相との中間の性質をもつものと言える。この新奇な相構造はランダムネスと流れとの絶妙な競合関係により実現するものであり、これに対応するものは平衡系では知られていない。 2. ヘリウムのような相互作用するボース粒子系は極低温において散逸なしで流れる超流動を実現する。超流動状態にあるボース粒子系はある種の自発的な秩序をもつという点で液晶とよく似ている。ランダムネスと流れとの競合が生み出す非平衡ダイナミクスの普遍性や特殊性に関する理解をより深めるため、ランダムな環境中を流れる超流動ボース気体のダイナミクスに注目した。本研究ではその理解に向けた最初のステップとして、ランダムポテンシャル中の一様な流れの安定性を議論する理論的な枠組みを構築することに成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. ランダム媒質中を駆動されるネマチック液晶の研究に関しては、最も単純な理論解析のレベルで非平衡相の性質を決定し、数値的な結果もそれをよく支持しているため、より詳細な解析へ向けた最初のステップとなる一年目の成果としては十分と考えられる。 2. ランダムポテンシャル中を流れる超流動ボース気体の研究に関しては、非線形ダイナミクスの解析の最初の一歩とされる、定常状態に対する線形安定性解析の枠組みを確立した点で一年目の成果としては十分と考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
1. 第一年目で得られている結果はスピン波近似と呼ばれる単純な近似理論と数値計算とに基づくものである。この近似理論はある条件の下では誤った結論を与えることが知られているため、別の手法によるさらに詳細な理論解析が必要となる。今後の研究では、繰込み群解析と呼ばれる新たな手法を我々の系に適用することで、スピン波近似や数値計算ではアクセスできない諸々の物理量の振る舞いを調べることを目指す。 2. 第一年目ではランダムポテンシャル中を流れる定常な超流動状態に関する線形安定性を議論した。今後の研究の目的は、不安定性が誘起された後に超流動状態が破壊されて乱流状態に遷移する非線形なプロセスを、主に数値計算を利用して解明することである。
|
Research Products
(4 results)