2015 Fiscal Year Annual Research Report
「XがYくなる」形式の変化表現の研究―成立から運用までの認知的要因に注目して
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15J01863
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大神 雄一郎 大阪大学, 言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 「XがYくなる」構文 / 形式と意味の対応 / 事態認知 / 時空間メタファー / 伝達効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度、報告者は「XがYくなる」構文の用法の整理と、関連する移動表現および時間表現に関する考察に特に力を入れて取り組んだ。 1つめに、報告者は日本語の「XがYくなる」構文について、それぞれ異なる意味的内容を表す5通りの用法に分類されるものとしたうえで、それぞれの用法の形式的特徴について詳細に記述を行った。これらの5通りの用法においては、Xの項に置かれる名詞句、Yの項に置かれる形容詞類、述部アスペクト形式といった要素の共起性・選好性に、それぞれ個別的特徴が示されることが明らかになっている。この見通しをふまえつつ、報告者は認知言語学の先行研究を参照し、上記のような5通りの用法の意味と形式の対応関係の成立は、言及される場面に対する話者(経験主体)の事態把握のありようを反映するものであることを示している。 2つめに、報告者は「Xが近づく」と「Xに近づく」の形式による移動表現基盤の時間表現の考察に取り組み、その成立に関わる認知的基盤と、それぞれの表現形式において生じる伝達効果について見通しを得ている。特に時間的意味を表す「Xが近づく」と「Xに近づく」に関し、報告者は生態心理学的知見を言語研究に応用する先行研究の見方に依拠し、問題となる表現の実例収集およびその適切性に関する母語話者の被験者調査を行ったうえで、「Xが近づく」と「Xに近づく」の間には「事態を捉える視点」の相違が指摘されること、また、両者にはこうした成立基盤の相違に基づく伝達効果の違いが認められることを主張している。 ここまでの成果をさらに発展させ、今後は日本語における変化、移動、時間に関する事態認知のつながりに光を当てながら、「XがYくなる」構文の各用法の成立メカニズムと伝達効果について見通しを深めることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、当初の計画にほぼ従い、採用1年目には「XがYくなる」構文の複数の用法について、その形式と意味の対応性について記述を行ったうえで、それぞれの用法の成立をを支える認知的メカニズムの検討に着手できている。加えて、1年目の研究計画として予定されていた、時間表現および移動表現の考察にも取り組めており、これについても複数の研究発表を行うなど、順調に成果が得られている状況である。 以上の研究成果に基づき、採用1年目には関連する言語系学会の査読付き投稿誌に研究論文が採択され、すでに発行がなされている。また、これとは別に、現時点において言語系学会に3件の研究論文を応募しているところである(査読中)。研究計画のうち、動詞「ナル」による表現の意味論的考察の成果については、当初予定していた学会での研究発表は実施することができなかった。ただし、この課題に関しても必要な考察を進め、その成果を研究全体に反映できるよう準備中である。また、考察対象とする言語現象について関連性理論の観点から検討を行う計画については、認知言語学と関連性理論の理論的立場の相違の問題から、見直しが必要となった。ただし、この点に関する修正案として、報告者はすでに(認知言語学的立場における)認知語用論の発話解釈モデルをベースとした修正案の立案に向けて取り組みを進めており、具体的な見通しが立てられている状況である。 以上のような取り組みと成果をふまえ、本研究は部分的な修正を行いながら、おおむね順調に進展しているものといえる。ここまでに得られた成果は、採用2年目の発展的な取り組みにつながるものと期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
採用2年目には昨年度までに得られた成果を結びつけ、「XがYくなる」構文の性質と特徴を多様な視点から明らかにすることを目標とする。具体的に、1つめには、考察対象とする構文の各用法の形式、意味、運用の実態を見渡し、それぞれの用法の特徴を詳細に記述する作業に取り組む。ここにおいては、それぞれの用法の表現への解釈のありように特に注目する。2つめには、考察対象とする日本語表現について、英語の対応表現との対照を行い、その用法や成立の異同について見通しを示すことを試みる。ここにおいては、英語母語話者へのヒアリングや、コーパスを活用しての分析を予定している。英語との対照研究においては、日本語の動詞「ナル」の意味機能に注目して考察を行う。
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Research Products
(7 results)