2015 Fiscal Year Annual Research Report
スペイン・バロック期の宮廷絵画研究―君主教育における美術の機能とベラスケス
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15J01938
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山田 のぞみ 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | スペイン美術 / バロック美術 / エンブレム / 君主教育 / ベラスケス / トーレ・デ・ラ・パラーダ / フェリペ4世 / 宮廷美術 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、 君主教育を説くエンブレム・ブックにみられる特徴の整理と理念の解明、そして狩猟塔トーレ・デ・ラ・パラーダの絵画装飾を検討するための比較対象である他国の狩猟館の実地調査等をおこなった。エンブレム・ブックについては、セバスティアン・デ・コバルービアス『道徳的エンブレム』とディエゴ・デ・サアベドラ・ファハルド『一〇〇のエンプレーサで表されたキリスト教的政治的君主の理想』について、それぞれの特徴を明らかにし、そこで示される君主教育上の理念について考察した。『道徳的エンブレム』については、君主教育で重視される美徳である「賢明」について述べたエンブレムを主にとりあげた。そこでは、図であるピクトゥーラに描かれているモティーフが、アルチャーティ等他のエンブレム・ブックにみられる神話的なものがあえて排され、現実に即した表現がとられているという点に特徴があることがわかった。サアベドラの著作については、コバルービアスと同様に「賢明」の美徳が重視されていたが、この「賢明」は、歴史を学ぶことと経験を積むこととによって培われるという主張がおこなわれていることが明らかになった。また、経験というのは、身体的な体験に依拠しており、なかでも視覚による受容が重視されていると思われる記述が残されていた。目のついた王杖をピクトゥーラに採用したエンブレムが収められているなど、視覚と王権には強い関連があったことも示唆されていた。またサアベドラは、絵画の教育的な効用を認めてもいた。この成果を『スペイン学』第18号に論文投稿し、受理されている。他国の狩猟館の調査については、特にフォンテーヌブロー宮殿のフランソワ一世のギャラリーは、神話画とそれに付随する動物の高浮き彫りが寓意的に意味を補完し合い、トーレ・デ・ラ・パラーダの場合でも考えうる装飾プログラムの構成がとられており、今後考察を深めていくべきことが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は二度の海外調査において、1630年代のトーレ・デ・ラ・パラーダの改築に関する重要な一次文献と二次文献の収集をしたことによって、博士論文のベースとなる資料を入手し検討に着手することができた。すでに資料の翻訳を開始しており、博士論文の末尾にトーレ・デ・ラ・パラーダ改築関連資料としてまとめる予定である。二次文献に関しては、研究課題である君主教育と美術の関係を論じる際に重要となるスペイン・ハプスブルク家の君主教育に関する研究書をまとめて検討することができ、当時の状況を慎重に再構築し、そこで果たされた美術の役割について考察することが可能になった。さらに、エンブレム・ブックに関しては、君主教育を目的とした二点の著作を分析し、ピクトゥーラに同時代の写実絵画と共通点を見出せることや、絵画の教育的な効果が強調されていることなどを見出すことに成功した。これらの成果については投稿論文の形で発表をおこなっており、そのため研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度おこなったエンブレム・ブックに関する考察を下敷きに、君主教育に関係づけられた絵画を中心に検討する。特に、今年度豊富に資料を収集したトーレ・デ・ラ・パラーダの内部装飾について、オルフェウスやヘラクレスなど、しばしば君主と結びつけて考えられてきた神話人物が描かれた作品によって装飾された部屋を中心に取り上げ、具体的にどのような理念、教訓が示されていたかを探求する。
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Research Products
(2 results)