2015 Fiscal Year Annual Research Report
回転拡散を利用したタンパク質反応ダイナミクス測定法の開発とその応用
Project/Area Number |
15J02073
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉武 智之 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | タンパク質 / 回転拡散係数 / 異方性解消法 / 反応ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度に得られた研究成果を以下に記す。 ①蛍光異方性解消法の光学系を構築した。また複数の球状タンパク質について回転拡散係数の測定を行い先行報告との比較を行うことで光学系の評価を行った。蛍光異方性解消法においては蛍光分子として長寿命のルテニウム錯体を用いることでタンパク質の回転緩和時間に比べ蛍光寿命が短すぎるという問題を解決した。測定結果は既に報告されているものとおおよそ一致する結果が得られた。 ②回転拡散係数とタンパク質二次構造の関係を調べるため、HSA(Human Serum Albumin)、Ovalbumin、Conalbuminの3つのタンパク質について天然状態と完全変性状態における回転拡散係数を測定し比較を行った。 グアニジン塩酸塩(6M)を用いて完全に変性させたタンパク質と天然状態のタンパク質についての回転拡散係数の測定を行ったところ、天然状態に比べ回転緩和速度が大きく増加する(50~75%程度)という結果を得た。これは、タンパク質は変性により構造の自由度が格段に増加するためタンパク質の局所構造の動きにより蛍光異方性が解消されてしまったことが原因であると考えている。このことから完全変性状態におけるタンパク質全体の回転拡散係数を、異方性解消法をもちいて観測することは非常に困難であるということが分かった。完全に変性したタンパク質に関する異方性解消法測定の例は報告がないためこの結果は有意義なものと考えている。 ③2次構造の一部が壊れる場合の回転拡散係数と構造の関係を調べるため、HSAのpH依存的な構造変化(最大で約30%程度の二次構造が壊れる)を対象として回転拡散係数測定を行った。その結果pHを変化させても回転拡散係数はほとんど変化しないという結果を得た。これは当初の予想に反する結果であり、現在この結果に対する妥当な解釈を模索中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は当初の目標である蛍光異方性解消法の測定系の構築および回転拡散係数とタンパク質二次構造含有量の関係に関する測定を行った。測定系の構築については、蛍光ラベル分子として長寿命のルテニウム錯体を用いることでタンパク質の回転拡散係数を測定することが可能になり、得られたタンパク質の回転拡散係数も先行研究などと比較して妥当な値が得られている。したがって、測定系の構築に関しては進捗状況に何ら問題はない。しかし、回転拡散係数とタンパク質二次構造量の関係については、当初予想していた両者の相関関係がいまだ観測されていない。完全に変性したタンパク質については変性時に回転拡散係数の増加が観測された。これは局所的なタンパク質構造の自由度が増加するためであると解釈しており、異方性解消法を用いてタンパク質全体の回転拡散係数を測定することは困難であるという結論を得ている。一方、部分的に二次構造が壊れたタンパク質についてはタンパク質全体の回転拡散が観測されているにもかかわらず、回転拡散係数と二次構造量の相関が観測されておらず、並進拡散係数とタンパク質二次構造の相関に関する先行研究とも矛盾する結果である。現在この結果に対する妥当な解釈を得られていない。 以上のことから研究進捗状況はやや遅れていると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、二次構造の一部が壊れる場合について、HSAとは異なるタンパク質の回転拡散係数測定を行い、回転拡散係数と二次構造量の関係が観測できないか調べる。回転拡散係数と二次構造量との相関が観測された場合は当初の予定通り時間分解測定に着手する。 両者の相関関係が観測できない場合は、その原因を明らかにするとともに当初の研究方針を変更する必要がある。具体的には、タンパク質構造の局所的な動き(回転運動の速度)を利用したタンパク質反応ダイナミクス測定法の開発を目指す。現在までの進捗状況にも記載してある通り、完全変性したタンパク質構造の局所的な動きは異方性解消法を用いて観測可能である。また、天然状態と完全変性状態を比べるとタンパク質が変性することにより蛍光異方性の解消速度は大きく増加しているため、異方性解消法を用いて両者の構造の違いを検出することができる。したがって、異方性解消法の時間分解測定を行い、タンパク質構造の局所的な動きを時間分解測定することでタンパク質反応ダイナミクスの観測を行うことができると予想される。
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Research Products
(4 results)