2015 Fiscal Year Annual Research Report
量子色力学に基づくクォークの閉じ込めとカイラル対称性及び多彩な相構造の研究
Project/Area Number |
15J02108
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土居 孝寛 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
|
Keywords | クォークの閉じ込め / カイラル対称性の自発的破れ / 格子QCD / Polyakov loop / Dirac eigenmode |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、低エネルギー領域の量子色力学(QCD)のクォークの閉じ込めやカイラル対称性の自発的破れなどの非摂動的現象及びその関係性に着目し、QCDの相構造を解明することである。2015年度の主な研究実績として、QCDにおいて、クォークの閉じ込めとカイラル対称性の自発的破れの関係に、直接的な1対1対応が無い事を詳細に示した。以下でその内容を報告する。 これまでの我々の研究により、クォークの閉じ込めとカイラル対称性の自発的破れには1対1対応の直接的関係は無い事が示唆されていた。その根拠は、我々が導出した、Polyakov loopとDirac演算子の固有モード(Dirac mode)の解析的関係式である。Polyakov loopは、クォーク1つが存在する系の自由エネルギーと簡単な関係があり、クォークの閉じ込めの秩序変数である。また、Banks-Casher関係式などから、低Dirac modeはカイラル対称性の自発的破れの重要なモードである事が示される。従って、我々の解析的関係式はクォークの閉じ込めとカイラル対称性の自発的破れの関係を表す式であり、この公式から上記の示唆が得られていた。 上記の研究において、我々の導出した公式は格子上で成立する公式であり、連続極限を行うのが困難であるという問題があった。これはPolyakov loopの連続極限に対する振る舞いの不定性から生じる問題でもある。しかし、Polyakov loopの揺らぎに対してはその不定性が存在せず、更にPolyakov loopと同様にクォークの閉じ込めの指標とみなせる事が示されている。そこで我々は、Polyakov loopの揺らぎに対してもDiracモードで展開する解析的関係式を導出した。この新しい公式から得られる結論はこれまでの結果を支持するものであり、更にこれまでの問題点を一部解決している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在、これまでの結果の問題点を解決し、一般化を行っているところである。これにより、より定量的に議論する事が可能となる。以下でその問題点と現在の進捗状況を述べる。 格子上では、連続極限でDirac演算子に一致する演算子は無数に存在する。これまでの我々の研究で考えてきたDirac演算子は、最も簡単な離散化を行って得られる演算子である。ところが、この演算子にはダブラーと呼ばれる格子特有の非物理的モードが含まれる。上記の低Diracモードには、物理的モードに加えてこのダブラーモードも含まれているので、定性的には問題にならない。しかし、定量的な議論のためには取り除かれるべきであり、これまでの研究の一般化が必要である。 このダブラーの問題点を解決するために、我々はWilson Dirac演算子の固有モードを考え、Polyakov loopをこの固有モードで表す関係式を導出した。Wilson Dirac演算子は、ダブラーを含まない格子上のDirac演算子として最もよく使われる。この関係式ではダブラーモードは自動的に取り除かれており、上記の問題は生じない。現在この関係式について、数値的な確認も含めて考察を進めているところである。更に、domain wall演算子や、overlap演算子等の、カイラル対称性を保つフェルミオンを考える際に現れる演算子についても考察を進めており、これからのQCD相図への応用に向けた準備が整いつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終的な目的は、カイラル対称性は回復しているがクォークが閉じ込められている相を探索することである。そのために、いくつかのステップに分けて考える。 まず、上記のダブラーの問題は解決しなければならない。特に、ダブラーの問題はカイラル対称性と非常に密接な関わりがあるため、最優先で解決を目指す。 これまでの研究ではクォークの質量が無限大の極限における数値計算を行ってきた。しかし、実際のアップ・ダウンクォークの質量はQCDのスケールと比べて小さいため、動的クォークを考慮に入れた計算を行う必要がある。動的クォークの効果は、クォークの閉じ込め・カイラル対称性の自発的破れの両方に影響を与えるため、両者の関係もこれまでの研究成果とは異なる可能性もある。今後の研究では、動的クォークの効果に注意し、詳細な数値シミュレーションを行う予定である。 また、これまでの研究では、有限温度QCDのみを考えてきた。しかし、有限密度領域・有限磁場領域のQCDもまた興味深く、重要な対象である。ところが、有限密度領域の格子QCDは符号問題のため解析が困難である。有限磁場中におけるQCDは、中性子星内部、重イオン衝突の物理とも関わりがあり、重要であるので、まずは有限磁場中におけるQCDの相構造を詳細に調べる。様々なクォーク質量及び磁場の大きさを用いて数値計算を行い、カイラル対称性の自発的破れは回復しているが、クォークは閉じ込められている相を探索する。具体的には、Polyakov loopと低Dirac mode密度が共にほぼゼロの領域を探す。このような相が見つかった暁には、その相における現象を予言し、中性子星の物理などへの応用を考察する。
|
Research Products
(9 results)