2015 Fiscal Year Annual Research Report
初期クェーサー探査による宇宙再電離と超巨大ブラックホールの形成過程の解明
Project/Area Number |
15J02115
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
尾上 匡房 総合研究大学院大学, 物理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 宇宙再電離 / 高赤方偏移クェーサー / 超巨大ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は現代天文学の最大の謎の一つである宇宙再電離期について、銀河中心の超巨大ブラックホールの活発な質量降着によって活動するクェーサーと呼ばれる天体を便りに再電離の進行過程や超巨大ブラックホール進化形成過程の新たな知見を得る事を目指している。本研究ではすばる望遠鏡の大規模可視光サーベイ計画であるHyper Suprime-Camすばる戦略枠観測(HSC-SSP)サーベイを用いて赤方偏移6、7クェーサー、特に低光度クェーサーを大量発見することで上記の問題に取り組んでいる。 まず本年度は、以前より取り組んでいるSED-fitting法を用いた高赤方偏移クェーサー選択法の改良を行った。 低赤方偏移クェーサーの統計を基にして多数のモデルテンプレートを準備する事により、スペクトル形状が特異な高赤方偏移クェーサーを本手法で選択可能であると期待される。今年度は実際のHSC-SSPサーベイの画像データに人工天体を埋め込む事により本手法を定量的に評価し、幅広い赤方偏移のクェーサーを高い選択完全性で選択できることを確認した。そしてHSC-SSPサーベイの初期観測データから赤方偏移5.9<z<6.9クェーサーを合計9個発見することに成功した。これらのクェーサーは自身が開発した選択手法によって高いクェーサー確率で選択されたものである。この成果論文は現在the Astrophysical Journal に投稿中である。現在、これらの新たなクェーサーの追観測を自身が筆頭研究者として欧州南天文台のVery Large Telescopeに提案中である。また新たなプロジェクトとして赤方偏移z>3多重クェーサー周囲の銀河密集環境調査を開始した。本プロジェクトではHSC-SSPサーベイの超広視野観測を生かしてクェーサー発現と周囲の銀河進化の関係を検証することを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず、期待通りHSC-SSPサーベイの初期データから赤方偏移6、7クェーサーを実際に発見できたことは特筆に値する。これらは既存のクェーサーと比べて約一桁暗く、これまで同時代に見つかってきたような最も巨大でかつ活発に活動しているブラックホールと比べてより一般的なブラックホール種族を発見できたことを意味する。さらに、見つかった中で最遠方である赤方偏移7のクェーサーは現在3番目に遠方のクェーサーであり、低光度クェーサーとしてはこの最遠方の時代で初めての発見となる。この成果を記した論文に、自身は第二著者として大きく関わった(Matsuoka et al. 2016, arXiv: 1603.02281)。今後初期観測から得られた観測データを用いて更なる選択手法の改良が可能であり、現在順調に観測領域を増やしているHSC-SSPサーベイの新たな観測データから更なる高赤方偏移クェーサーの大量発見が期待される。 さらに今年度は平成27年11月末から2ヶ月半、ドイツ・Max Planck Institute for Astronomy (MPIA)にてインターンシップを行った。受け入れ先のBram Venemans氏は高赤方偏移クェーサー観測の第一人者であり、自身の高赤方偏移クェーサー選択法や高赤方偏移クェーサーを用いた各種サイエンスについて数々の有益な議論を行った。世界の第一線で活躍する研究者や学生との交流により、自身の研究の天文学全体における位置づけを再認識できたように思える。 またHSC-SSPサーベイを用いた新たなプロジェクトを氏との議論の下開始し、高赤方偏移の多重クェーサーというユニークな天体に着目することで極端な環境下での周囲の銀河形成の検証を世界で初めて検証する。 このように本年度は研究面でも十分な進捗が得られたと同時に、海外での貴重な研究経験も得られた。よって本年度の進捗は当初の計画以上、と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、今年度と同様に新たに公開されるHSC-SSPサーベイデータを用いて新たな高赤方偏移クェーサーの発見を目指す。今年度得られた初期データを基にして高赤方偏移クェーサー選択手法の改良も同時に行う。さらに今後は高赤方偏移クェーサー探査に留まらず各種サイエンスに積極的に取り組むことを目指す。具体的には、 (i)発見したクェーサーの追観測によるサイエンスの展開(ブラックホールの活動性や再電離進行等) (ii)多重クェーサー環境における銀河密集度の統計的調査、他環境との比較 (i)については既に可視光、近赤外、サブミリ波といった多波長の分光フォローアップ観測を共同研究者らと提案しており、高赤方偏移では世界で初めて低光度クェーサーの性質に迫ることができると期待される。これはHSC-SSPサーベイが既存の可視光サーベイに比べて超広視野で深い観測を実現する、という点で世界最高峰のサーベイ観測プログラムであることによる。こういった低光度クェーサーの性質を数多く調べることで超巨大ブラックホールの初期質量や形成シナリオに強い制限がつけられ、また同時に再電離期の進行過程や空間的非一様性も検証できる。 (ii)については公開されたHSC-SSPサーベイデータを用いて、非常に稀な多重クェーサー周囲の銀河個数密度を多色の撮像データと測光赤方偏移を基に評価する。近年の理論、観測的研究から「高赤方偏移クェーサーがその時代の最も重いハロー内で発現する」という、これまで広く信じられてきた考えに反する結果が数多く報告されている。そのため、本研究では極端な多重クェーサー環境に注目し、単独クェーサー環境やそれ以外の環境との比較からクェーサーがどのような環境で発現するのか、クェーサー環境に多様性はあるのかを検証する。
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Research Products
(8 results)