2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J02148
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
須山 巨基 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 文化進化 / 情報伝達 / 言語 / 技術 / 科学 / 回帰性 / モジュール性 / 向社会行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、人間特有に見られる言語、技術、科学といった文化がなぜ人間にのみ見られるのか、その背後に潜む認知、社会メカニズムを明らかにすることである。2年目では認知プロセスに着目した研究と同時に、協力行動の文化進化における意義を他種の動物を用いて検討を行った。 初年度では技術の進化に着目し、技術の知識が人から人へと伝達されていく過程で、言語などで観察されてきた回帰性、またはモジュール性の構造が技術に付け加えられ、より学びやすく、かつ効率的な技術が進化することを示した。2年目では、科学技術の進化に着目し、科学の発展において文化伝達が担う役割は何かを明らかにしようと試みた。実験課題はノーベル賞を受賞した科学的発見であるラクトースオペロンの制御システムを用い、参加者にお互いの解答を伝言ゲームのように伝達していく結果、この科学的発見を再発見できるか検討した。その結果、参加者の解答は伝達を経る過程で徐々に精度を上げていき、伝言ゲームの最後ではほとんどの参加者が正しい解答、つまりラクトースオペロンの発見をするに至った。現在、文化伝達のどのような側面にこの上昇を支えるメカニズムがあるのか検討中である。 さらに今年度では、文化進化において協力行動が重要であるかといったマクロな視点の研究も行った。ここでは類人猿と認知、社会システムが収斂進化し、我々と同じように文化を保持しているカラス科に着目し、彼らにも霊長類と同じような協力行動が見られるのか検討し、文化進化の萌芽に協力行動がどれほど影響を与えていたのか検討した。この実験ではカラス以外にも3種の鳥をモデル動物として用いた。10羽のカラスが同じケージにいる中で、協力課題を行わせた結果、1羽のみがコストを支払ってまで協力行動を示した。この研究はウィーン大学他3大学との共同研究であり、他の動物の結果を待っている段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度では、他大学との共同研究を行うことにより、実験の結果のみならず多くの研究者とつながることに成功した。実験は順調に行われ、次の実験課題も予定通り決まり、来年度の春先にも実験を行う予定である。実験の結果も想定内の結果が揃っており、順調に博士論文に向けて歩んでいる。しかし、本来今年度に出す予定であった論文がまだ作成中途のことで概ね順調に進展していると結論づけた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では技術の構造と科学の促進の2つの観点から文化伝達の実験室実験を新たに行うことを目標としている。技術進化においては従来の実験で検討しきれなかった構造自体の評価を行えるような実験パラダイムを構築し秋に実験を行う予定。さらに、科学進化においては従来の文化進化研究で検討されてきた様々な伝達システムを多角的に検討し、どのような伝達ネットワークで効率的に化学進化が起こるのか検討する。 初年度で行った実験では、技術の進化が単純な文化伝達システムで発生し、世代を経るとともに技術が発展していくとともに、伝達することによって特異的な構造が創発することが明らかになった。しかし、その構造を定量的に評価することができなかったため、間接指標として構造の単純さを評価するのみにとどまった。本研究では、直接的に評価を行う手法として組織工学などで使われているDSM (Design Structure Matrix) を用いて検討する。実験パラダイムも変えて、言語進化などで使われる組み合わせを用いた実験に変える。 さらに2年目で行った科学実験をさらに発展させ、単純な伝言ゲーム方式の伝達だけでなく、従来の文化進化で扱われてきた多集団間の伝達やネットワークを用いた伝達などを考慮した場合、科学技術が如何に発展するのか検討する。 最終年度は実験を行うとともに、比重としては今までの研究と今後の研究の論文化に従事する。夏には今までの研究の論文科と春先に行う予定である科学実験の論文化を目指す。
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Research Products
(1 results)