2015 Fiscal Year Annual Research Report
多剤排出トランスポーターの薬剤排出機構に則った新規阻害法の確立と医薬への応用
Project/Area Number |
15J02214
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井上 雄太 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 多剤排出トランスポーター / 薬剤耐性 / プロテオリポソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
RND(resistance-nodulation-cell division)型の多剤排出トランスポーターはグラム陰性細菌の薬剤耐性に大きく関与しており、その機能解析や阻害剤の開発は、薬剤耐性克服に繋がると期待されている。多剤排出トランスポーターの最も特徴的な部分は複雑な基質特異性であり、ちょっとした構造の変化で、基質、非基質を見分ける繊細さもある。そこで本研究では、多剤排出トランスポーターの基質認識の繊細さを利用した新規なトランスポーター阻害法を確立し、医薬へ応用する事を計画した。すなわち、基質と非基質を化学結合的させた化合物は、阻害剤になるのではないかと言う仮説の検証である。 これまでに、こういった化合物を合成し評価してきたが、分子量が大きくなってしまい、菌体内への移行が確認できなかった。そこで、研究の第一段階として、プロテオリポソームによる再構築を用いたin vitro評価系の構築を初年度の目標とした。先行研究に従って、in vitro評価系の構築を試みたが、再現性が全く取れず、薬剤評価は困難であると判断した。そこで、プロテオリポソームを使った別の文献を再現する事を計画したが、これには新たにタンパク質発現系をつくる必要がある。新たなタンパク質の発現系の構築は共同研究先に依頼し、これが完成次第、in vtro評価系の構築に再着手する予定である。 その間、SBDDによる阻害剤の探索合成を行っていた。緑膿菌の2つのトランスポーターMexBとMexYを同時に阻害する阻害剤を目標に開発を行った結果、目的の化合物を発見した。さらに、発見されたトランスポーター阻害剤は病院から臨床分離された多剤耐性緑膿菌に対しても有効であるという事が確認された。現在、以上の結果をまとめて、論文を準備している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究開始時の計画では、本年度中にin vitro評価系を完成させ、新規アプローチの妥当性の検証までを行う予定であったが、計画していたin vitro評価系は再現性の面で問題があり、薬剤評価には不向きであると判断した。そこで、代替案として別の報告されている評価系を参考にすることを考えた。しかし、こちらの評価系の構築には新たに2つ以上のタンパク質を精製する必要があり、現在は新たに使うタンパク質の発現系を共同研究先に依頼している。よって、計画から遅れていると判断した。 本年度の前半は計画に従って、in vitro評価系の構築を試みた。すでに先行研究によって論文が報告されていたため、これを再現すれば容易に構築できると考えていたが、実際に測定してみたところ、再現性が全く取れない事がわかった。さらに、プロテオリポソームを使った現在の評価系は、なかなか再現が取れないらしいというアドバイスをいただいた。この事から、正確な測定が必須となる薬剤の評価は、当初計画していたin vitro評価系では困難であると判断し、別の手法を計画した。新たに計画した方法では、再現性がより高く、かつ高感度に測定できる事から、従来の方法よりもより確実に薬剤の評価が行えると期待できる。しかし、従来の方法ではMexBあるいはMexYといった1種類のタンパク質のみを必要としていたが、今回新たに計画した方法ではこれらの他にMexA, MexX, OprMといった新たなタンパク質が必要である。現在、共同研究先ではこれらのタンパク質を用いた研究を計画していた為、これらの発現系の構築を依頼し、これが完成次第in vitro評価系の構築に再着手する予定である。 以上の理由より、本年度中の完成を計画していたin vitro評価系は、現状は完成しておらず、薬剤の評価に取り掛かれていないため、遅れていると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
新規、評価系の構築にはMexA, MexX, OprMといったタンパク質が必要である。これらの発現系の構築は、共同研究先に依頼しており、これが完成次第in vitro評価系の構築に着手する予定である。これが完成するまでの期間、本年度末に発見したMexBとMexYを同時に阻害できる化合物の結合形式解明に着手したいと考えている。現在既に、変異導入を用いた実験に着手しており、数か月以内に結果が出ると見込んでいる。その後、半年以内を目標に結果をまとめ、これらを論文として発表する予定である。同時に、次年度の後期に予定していた「基質と非基質を化学結合させた化合物」の合成を前倒しして着手する。夏までに、新規タンパク質の発現系が完成すると見込んでいるが、in vitro評価系の構築まで含めると、期間内での実験完了はやや困難と考えられる。万が一、in vitro評価家の構築が困難と判断される場合には、in vitro評価系での検証を飛ばして、直接菌体を用いた評価に移る予定である。この際、化合物の溶解性や菌体内への移行性に問題が生じる事が懸念されるが、有機合成に専念し、やや合成の困難な水溶性の高い化合物を用いたり、PEGリンカーを調整するなどして工夫する計画である。この方法では、合成された化合物がトランスポーターの阻害剤であるか判断はできないが、結果としてトランスポーターの薬剤排出を回避できる化合物に至れば、本研究の本来の目的である「薬剤耐性菌の克服」の足掛かりになるであろうと考えられる。 現状、次年度はin vitro評価系の構築にこだわるか、直接菌体を用いた実験に着手するか判断していないが、どちらの実験を実行しても、薬剤耐性菌克服のための足掛かりとなるような結果を残し、次へ繋げられるようにまとめたいと考えている。
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Research Products
(4 results)